2017年2月27日月曜日

ヴァルプルガの詩/大神龍丸

小野賢章さん演じる犬神龍丸の感想です。


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あの時、君がトラじゃなく
ボクを選んでくれた事、
凄く嬉しかったんだ。
それだけで報われた気がした。

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ずっとコンプレックスだったから。
力の強いものしか
生き残る事が出来ない一族の中で、
大した力もない自分が、
兄のトラのおかげで、
おまけみたいに長の名代になってる事が。

いつだってトラには敵わなかった。
長候補だと見込まれている
攻撃力の強いトラに対し、
彼は治癒能力に長けていて。
でも、それは彼らの使命である
禍を払う事には使えない。
役に立たない力。

力の弱いものは
一族の中に居る事が許されず、
力を封じられ、
人狼ではなくただの狼として放たれる。
群れを持たない、
狼として暮らした事のないものが、
一人山の中に放たれて
生きて行けるハズなどないのに。

だからいつも怯えていた。
いつか自分も必要ないと、
一族の中から追い出されるのでは?と。

高い治癒能力を持ちながらも、
その力を使う度、夜は熱にうなされる日々。
けど、誰にも言えなかった。

だって自分はただでさえも役立たずなのに、
その上熱の事を知られたら、
出来損ないとみなされて、
追い出されてしまうかも知れなかったから。

けれど、守る対象である彼女に、
そんな弱い部分を見られてしまった事から、
おかしくなってしまった。

イヤ、本当はそうじゃないのかも知れない。
もっと前からだったのかもしれない。
小さい頃、出会ったあの日から、
ボクは彼女が好きだったのかも知れない。


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隠世からやってきた化物。
禍を撒き散らすそれを
追い払う事が大神一族の使命。
そしてその化物は
なぜか彼女に執着しているため、
必然的に
彼女を守る事になったリュウとトラ。

ある日、執拗に彼女を追い回す化物が、
彼女に自分の血脈を与え、
隠世に唯一なる貴重な実を食べさせた。

ざくろに似たそれは、
人が口にすれば不老不死になり、
人狼の彼らが口にすると、
その力を強化するという。

そうして与えられた彼女は
普通の人間から、次第にあの化物
…謎の青年と同じものに
作り変えられて行った。

そんな彼女の周りには、
彼女を狙う禍が現れ、
その禍に触れた人々が体調を崩し、
学級閉鎖、休校…と、
最終的には市から
避難勧告が出される程の騒ぎに。

禍に触れると、異形となる彼女は、
隠世の者にとって、
格好の餌となってしまったため、
被害が広がると共に、
大神一族の屋敷に匿われる事に。
何度か泊めてもらった事のあるそこに、
今度は嫁候補という形で
お世話になる事になった彼女。

そうして先代は彼女に告げた。
トラかリュウか、
長にふさわしいと思うものを選びなさい。


…と。

実を体内に宿し、
あの青年の血脈が
心臓に植え付けられている彼女の血は、
それだけで彼ら一族の力になる。
けれどその血を与えられたものは、
血に魅せられたかのように狂い、
理性を失くし、
貪り尽くしてしまうかも知れない。

彼女にとってはとても危険な選択。
それでも彼ら双子を信頼しているから。
今まで沢山守ってもらったから、
自分で役に立てる事があるのならと、
嫁として大神一族のお世話になる事を決意。

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その時もトラが選ばれるだろうと思った。
誰もがトラが長にふさわしいと
思っていたから。
そしてトラ自身もそれを望んでいたから。

長に全く興味の無かった彼。
けれど、事情が変わってしまった。
だって彼女が長の嫁となるのだから。

だからトラが選ばれる、
トラがふさわしいと思う心の片隅で、
自分が選ばれたいという気持ちがあった。

そうして彼女に選ばれた時、
本当に嬉しかった。
だって、自分という存在を
認められた気がしたから。
彼女に、ずっと小さい頃から
好きだった彼女に。

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そうして彼女の血を与えられた事で、
今まで霧を出す事と治癒の能力とは
別に使われていたけれど、
霧に治癒の力を宿す事が出来るように。

すなわち、その霧の中で戦うのなら、
自分の味方たちは、
無敵状態で居られる事になる。
傷を与えられても、
霧によりすぐ回復させる事が出来るから。

とても敵うハズなどないと思っていた化物。
けれど、この霧の中で
トラの攻撃力を使えば勝てるかもしれない。

そうして長となった
リュウの指示で最終決戦が。
自分が霧を発するから、
トラを中心に牙が攻撃するという作戦。

けれど、元から力を使うと熱を出す彼。
今回の戦いであの化物を倒すためにかかる時間、
その時間の間中霧を持続させる事は相当な負担。

だから彼は考えていた。
この戦いで死んでしまうだろうと。

そうして詳しい理由を話す事なく、
双子の兄に決戦後に長を譲る事を発表し、
挑んだ戦い。

リュウの霧と、
機転のおかげで無事に化物を撃退した大神一族。
けれど、その戦いの一番の功労者であるリュウは、
戦いが終わった直後倒れてしまった。

彼女の血には力があった。
だから彼を助けるためなら、
自分の血を与えたい
…そう申し出たけれど、
化物自体が消滅した事により、
彼女の血液に特別な力は
もうなくなってしまっていた。

助けられない、何も出来ない。
大切な人が死んでしまうかも知れないのに。


そんな中、
ただ傍に寄り添う事しか出来ない彼女。

それでも彼が好きだから、
死なないでと強く願い、
その唇に自らのそれを押し当てると、
彼が目を開いた。

そうして生きている事に驚いた彼でしたが、
良かった。
まだ君に言ってない事があったから
」と呟き、
小さい頃からずっと、君が好きだよ…と、
その一言を告げて、再び目を閉じてしまった。

目を閉じた彼からは、鼓動が感じられず、
ただ愛する人を失ったと涙する彼女。

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所がその後、奇跡的に一命を取り留めた彼。
けれど、彼の中から人狼としての力は消え、
予定通り兄のトラが長の座につき、
力を失った彼は、
里に降りて一人暮らしをしながら、
再び彼女と同じ学校に通う事に。

あの時は嫁として大神一族の元に行った彼女。
でも、今はただの恋人同士の二人は、
普通の高校生らしく、
恋愛を楽しんで過ごせるように。

人狼としての力は失ったけど、
一番欲しかったものは手に入ったから。
寧ろこれで良かったのかも知れない。
ボクも君と同じ者になる事ができたんだから。


そんな風に思える彼は、
今ではただの恋人になってしまった彼女を、
いずれ本当に嫁として
迎えるつもりで頑張っている途中。

そう遠くない未来、本当に夫婦となって、
きっとしあわせな家庭を築く事でしょう。

2017年2月26日日曜日

ROOT∞REXX/桐生帝

木村良平さん演じる桐生帝の感想です。


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初めて会った時からずっと、
おまえだけが好きだったんだ。

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まだ彼が小学生だった頃、
駿と玲と三人で音楽教室に通っていた。
そこで彼は一人の女の子と出会った。

彼女はいつも楽しげに音楽を奏で、
そして曲に合わせて歌っていた。
即興で作られるそれは、
めちゃくちゃな音なのにもかかわらず、
教室のみんなは、その楽しげな様子に心惹かれ、
彼女と一緒に歌っていた。

その輪の中に入る事はできなかったものの、
彼女のその楽しげな様子は、
彼に音楽の楽しさを教えてくれた。

それはまだ幼かった頃の
彼女と彼との出会い。

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REXXが無期限活動停止になる少し前に、
彼は母を亡くした。
入院と手術と出費がかさみ、
彼の父は一家の大黒柱として、
一人でその苦労を抱え込んで、
母の死により、心が折れてしまった。

そんな父に、
彼も彼の弟妹も、
強い父を求めてしまったからだろうか?
彼の父は、彼らを捨てて家を出てしまった。

そうして残された彼らは、
医者をしている叔父さんの家に
引き取られる事になったものの、
いつか父が帰ってくるハズだと信じ、
未成年のみで暮らすように。

幸い叔父は近くに住んでいた事から、
時折彼らの様子を見に来る後見人となってくれた。

弟も妹もまだ幼い。
自分が父の分も頑張らないと。

父親譲りのその性格から、
彼は父と同じように一人で背負い込んでしまった。

REXXの活動停止後、
彼は弟たちの為にバイトを増やし、
大学受験も諦めて
公務員試験を受ける事まで考えていた。

本当は音楽を続けたい。
だってドラムが好きだから、
音楽が楽しいから。

本当は大学にも進学したい。
だって、まだまだ学びたい事はあるし、
彼は成績優秀だったから。

それでも可愛い弟と妹のためなら
なんだって出来るからと、
自分の大事なものを一つずつ諦めていった。

きっと最初はそれで平気で居られても、
いつかどこかで思うハズなのに。
どうして俺だけがこんな目に…と。

けれど、彼女が転校してきたから。
REXXを復活させるとひたむきに努力したから。

だからロック部が出来て、
再び彼はドラムを叩けるように。

それでもどこかで思っていた。
ずっとは続けられない。
弟たちのために、堅実な道を行かなければと。

そんな彼を救ったのが彼女で、
そしてREXXの仲間だった。

そうして彼が再び音楽と正面から向き合った時、
弟も妹も喜んでくれた。
だって、二人は兄のドラムが大好きだったから。
自分たちのせいで
兄が音楽を諦める事が辛かったから。

REXXとして活動を再開するにあたり、
対バンでMADLipsと対決する事になった時、
圧倒的にライブ経験の足りない彼らのためと、
敵であるMADLipsが前座をやらせてくれる事に。

無事に前座を勤め上げ、
彼らのライブの感触も上々だったその時、
客席には蒸発してしまった父が見に来ていた。

文化祭でロック部が演奏した時、
朝霧の指示で、その演奏をネット配信し、
その後、REXXの再始動となったのだが、
その配信した映像を彼の父が見ていた。
そうして彼女がそうだったように、
彼の父もまた、REXXの演奏に支えられた。

ただ逃げていた父。
その生活の中で、息子がドラムを諦めた事を知り、
父なりに心を痛めていた。
体も壊し、思うように働けない毎日。
子供の事も気がかりなのに、
戻る事も出来ない時間の中、
息子が再び楽しそうに演奏する姿は、
父に大きな力を与えた。

そうして彼の父を探していた朝霧も、
父の居場所を突き止め連絡をとった事から、
MADLipsのライブを見る事が出来た彼の父。

その後、すぐに家族の元に
戻る事はできなかったものの、
必ず子供の元に戻るという決意を固めた。

そうして彼は無事にMADLipsとの対バンで勝利し、
高校も卒業。
諦めていた難関の志望校にも見事合格した頃、
父とは電話でやり取り出来るように。

REXXから力をもらった彼の父は、
体調も戻り、以前の会社で働けるように。
そして、数ヶ月後、
家族の元に帰る事に。

彼の父が帰って来る日、
お祝いをするため、
手伝いにきていた彼女は、
その日彼から指輪を渡されプロポーズ。

彼の父も戻るし、
あまりお邪魔しないほうが、
家族水入らずを邪魔してしまう。

そんな事を考えていた彼女の心を読んだかのように、
彼は彼女に家族になって欲しいと頼んだのです。

だって、ここまで来られたのは、
彼女が居てくれたから。
遠い昔、音楽の楽しさを教えてくれたあの日から、
彼にとっての特別はずっと彼女一人だった。

そんな彼女が、
REXXを心から愛し、彼らが再始動する力をくれた。
父の事もわだかまりなく受け入れられたのも、
彼女が彼を変えてくれたから。

頼ったっていい、甘えたっていい。
仲間や大切な人とは、
支え合っていけばいいのだと。

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お前がいない生活なんて考えられない。
だからこれから先もずっと、
俺の隣に居て欲しい。
恋人ではなく、家族として。

2017年2月20日月曜日

マジきゅんっ!ルネッサンス/墨ノ宮葵

KENNさん演じる墨ノ宮葵の感想です。


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僕の世界はあの部屋が全てだった。
ただ理想の書を追い求め、
只管書き続けた。

それでも辿り着けなかった理想への道は、
キミが教えてくれた。

キミに出会えたから、
僕は変わる事が出来たんだ。

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書道の天才の彼は、
いつも葵部の部屋に籠って文字を書いていた。

その才能ゆえに、
自習として認められてはいたものの、
2年になった今、
いつまでもそれを続ける事は
難しくなっていた。

そこで担任が苦肉の策として、
彼を星ノ森サマーフェスタの実行委員に。

けれど、普段教室に来る事もなければ、
寮にも滅多に戻らない彼が、
実行委員に集まりに顔を出す事もなくて。

そこで編入生の彼女に白羽の矢が。

彼女の頑張りで、実行委員として
顔を出すようになった彼は、
彼女とアンサンブルを組むことになり、
毎日彼女に連れられて教室へ。

彼を無事にこの学園に残す為に、
授業に連れて来て欲しいと
先生に頼まれていたから。
そうして毎日彼を葵部に迎えに行っては、
授業へと連れて行く彼女。
そうして居るうちに、
彼は研修旅行にも参加出来るようになり、
クラスのみんなとも打ち解けるように。

実行委員全員とのアートセッションも、
彼女とのアンサンブルも成功させた。

彼女のお陰で世界を広げた彼は、
元々の優しさを見せるようになり、
祖母に言われた通り、
想いを言葉で伝えられるように。

幼い頃、家の命令で
彼とは友達で居られないと
帝歌に告げられた時も、
彼の辛そうな顔を見て、
「分かった」とだけ答えた事から、
二人の距離は遠くなってしまった。

けれど、彼女との出会いが彼を変えた事から、
帝歌にもその時の本当の気持ちを伝えられ、
また友人として付き合えるように。

そしてサマーフェスタでの
活躍が認められた彼に、
留学の話も持ち上がったが、
彼女が居る事で、
自分の書が少しずつ
理想に近づいて居るのを感じて居た彼は、
留学の話を断った。

その後、彼女と共に、
アルティスタプリンスとプリンセスを
目指すことに。

そんな目標を掲げた直後、
彼女の能力が開花し、
その力が強過ぎて、
彼女の体を蝕んでしまう事が判明。
校長からは退学を進められてしまう。

そんな彼女の心に寄り添い、

キミが大切だから、
辛い様子を見たくはないし、
いつも幸せで居てほしい。
でも、キミはプリンセスになりたいんだろう?
なら諦める事はない。
辛い時は僕が支えるから。

そう言って彼女の決意の後押しをし、
彼女は学園に残り、
魔法芸術の腕を磨く事に。

互いに支え合い、高め合う中、
無事に招待状が届き、
二人でプリンセスとプリンセスに
選ばれた。

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理想の文字を書くために、
欠けていた何か、足りなかった何か。
それを教えてくれたのはキミだった。

キミのことは僕が支えるから、
だからお願い。
これからも側にいて。

2017年2月18日土曜日

7'sCarlet/真相/ハナテ

緑川光さん演じるハナテと真相の感想です。


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だとしたらあの子と言う存在はなんなのだろう?
狩られるだけにあるというのか?

ただ長い時間を生きて
…いや、過ごして来た彼にとって、
彼女との出会いは特別なものだった。

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死神。
そう名乗った彼は屍者で、
もう長い年月を過ごして居た。

人の中には時に特別な魂を持つものが居て、
色素の薄い、写真に赤目で写る人は要注意。
あなたの魂は特別で、
屍者にとっては「エサ」となるから。

彼もその昔、
そのエサと呼ばれる人を狩った事から、
乾きから解放され、
もうどれくらいの月日が流れたのかも
分からない程の長い時間を過ごして居た。

だから、梅雨が明けて、
赤い紫姓草を見つけると、
狩るものと狩られるものを見物し、
それを唯一の楽しみとして居た。
そう、あの夏までは。

屍者の目に写るモノクロの世界の中で、
アルビノと呼ばれる色素の薄い彼女は、
キラキラと輝いて見える。
まるで屍者に自分が獲物であると
知らせるかのように。

そんな彼女が新しく訪れた屍者に狙われた時、
彼の胸はドクンドクン音を立てた。

あの子を助けなければ。

なぜだかそう思い、
衝動的に彼女に近づき、
更にはお節介に危険から身を守る
アドバイスまでしてしまった。

長い時の中で、
目立たずにひっそりと周りに溶け込むすべを
身につけて居たはずなのに。
彼女が絡むと放って置けなくなってしまった彼。

結局何度も危ない目にあう彼女を助け、
最終的には、
屍者ばかりでなく、
当時高校生だった月読に川へと突き落とされ、
殺されそうになった彼女を助けた時、
彼はあの街を離れた。
彼女を助け、共に生きようと。

長い時間の中、
人の記憶の曖昧さを利用し、
その記憶に入り込むすべを身につけて居た彼は、
五年も経つ頃には彼女の兄になって居た。
両親はもちろん、彼女も、
そして周りの人間全てが、
なんの違和感も持たずにそう認めるほどに。

そうして彼女を守りながら、
自分が満たされている事を感じた。
イワナガヒメの呪いでただ長い時を過ごし、
いつ終わるとも知れない時間の中で、
初めて知った幸福。

けれどある時彼は自分が弱っているのを感じ、
彼女の幼馴染のヒノを呼び出し、
自分は少しここを離れるから、
必ず彼女を守るようにと託した。
また戻るつもりだった。

けれど、長く奥音里を離れて居た彼は、
幸せに浸かり感覚が鈍って居たのだろう。
紫姓草の咲く谷で、
アッサリと屍葬組の餌食に。

捕らえられた彼は、
一年にも及ぶ拷問を受けたが、
途方もなく長い時間を過ごしている彼は、
人間には計り知れない程の
苦しみや悲しみを知っているから、
彼らの拷問など、どうと言う事もない。

けれど、彼の世話をして居た屍葬組のものから、
アルビノと言う言葉と彼女の名を聞いた時、
彼はまた胸のざわつきを覚えた。

ここは彼女にとっては危険な場所。
何としても助けなければ。
何としても守らなければ。

だから彼は軟禁された牢を脱出し、
彼女とコンタクトを取るべく風厘館へ。
そうしてこっそり置いた手紙は、
無事に彼女に届き、再会を果たした。

所が、当時から彼女を狙って居た月読が、
屍者となり、ここで彼女を狙って居た。

そうして彼は決意した。
紫姓草は自分と一心同体。
あの花が枯れたら、自分の命も尽きる。
すなわち、紫姓草がなくなれば、
自分も他の屍者も居なくなり、
恐らくその後屍者が蘇る事もないだろう。

彼女の事は愛おしくてたまらない。
ずっとそばに居たいし、
何があっても守りたい。
たとえそれが
自らの命を犠牲にすることだとしても。

だから、月読ともみ合って居た時に、
彼女に花を燃やせと頼んだのに、
彼女は出来ないと、
その願いを聞き届けてはくれなかった。

お兄ちゃんと一緒に居たい。
離れたくないと。

けれど、この花がある限り、
彼女は命ある限りエサとして生きる事になる。
だから守りたかった。

その時、泣いている彼女の背後から、
ヒノが現れた。
彼はヒノに花を燃やすよう頼んだ。
ヒノは彼の気持ちを汲み、
彼女に変わり紫姓草の花へとマッチを投げた。

花が燃えると同時に、
月読は紫の花びらと消え、
炎の中、彼だけが残る。

そうして彼は彼女への想いを告げて、
キスをした。
どうかここを出て生きて欲しいと。
想いは全てヒノに託したから。

ヒノもまた、彼の想いを受け取り、
谷から彼女を連れ出した。

忘れない、お兄ちゃんの事を絶対に。

彼が消滅すると同時に、
恐らく彼女の中から彼の記憶は消えてしまう。
そう知っている彼女は、
それでも忘れないと告げて、
愛しい人と別れた。

その後、自警団に保護される二人は、
今までの出来事を全て忘れ、
自分たちは山で迷ったと思って居た。

けれど、彼女は涙が止まらなかった。
何かはわからない。
けれどひどく大切なものを亡くしたと、
そんな消失感から。
兄の記憶を失った彼女は、
心に穴が空いたように感じながらも、
日常に戻った。

両親は相変わらず海外で、
家には彼女一人。
誰も居ないリビングに「行ってきます」
と告げると、「行ってらっしゃい」の声が。

誰も居ないリビング。
知らない声。
でも、なんだかとても懐かしい。

季節は夏。
庭には幼い頃に奥音里で
ソウスケに貰った紫の花、紫姓草が
一輪咲いて居た。

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紫姓草の咲く場所に、
特別な想いを残した屍者が蘇る。
愛する彼女の元に、
またいつか戻れる時が来るのかも知れない。
あの花がそこにあるのだから。

2017年2月17日金曜日

7'sCarlet/真相/櫛奈雫トア

森久保祥太郎さん演じる櫛奈雫トアの真相の感想です。


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ぼくは君に貰った勇気でここまで生きてこれた。
あれが始まりだとしたら、
きみで終わりにして欲しいんだ。

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俺は女しか殺さないんだ。

捕まった月読は確かにそう言った。
けれど事件は三件。
月読の供述が真実だとすれば、
ケイスケの父を殺したもう一人の屍者が居る。
それも風厘館の中に。

誰が犯人か?
みんなで集まり、ユキをリーダーとして
人狼ゲームのような事を始めた時、
ユアが自分が屍者だと名乗りをあげた。

けれど、ユアが犯人では違和感が残る。
そうしてユヅキは自らの腕をナイフで刺した。
屍者であるならば、
生者の血に反応するからと。

読み通り屍者は反応を示した。
それが彼、櫛奈雫トアだった。

彼は故郷でのライブを楽しみにして居たから。
だから、この奥音里に来る途中、
街への入り口の橋で運転を誤り事故に遭ったのに、
気づいたら紫の花に囲まれて居た。

応援してくれたファンに、
何かを返したいと言う、
彼からファンへの想いの強さが、
彼を屍者として蘇らせた。

そうして風厘館にチェックインした彼は、
禁忌倶楽部のメンバーが顔を合わせた夜、
風厘館裏の河原でユアに打ち明けた。
自分が屍者である事を。

ユアは彼の双子の姉だったから。

当然殺人衝動はある。
それでもそんな事をしたら、
自分の中の何かが壊れてしまうと、
彼はそれを押さえ込んで居た。
そうして明日はライブの日。
もう蘇って一週間になる。
ここまで人を殺さずに存在出来た事は
不可能に近い。
彼自身も空腹に苦しみ限界を感じて居た。

それでも彼女が居てくれたから。
彼女を抱きしめることで、
僅かながら乾きが癒される気がした。

12年前、神社で
彼の歌を喜んで聞いてくれたあの時から、
彼女だけが彼の心の支えだった。
そして今も、彼女の存在が、
彼を彼としてここに留まらせている。

そんな彼の話を聞いて、
禁忌倶楽部のメンバーたちは、
彼があるべき場所に還るためにと、
協力することに。

一連の事件でライブを中止する話になったのも、
ユキの策により、
一曲だけ集まったファンのために
聴かせると言うことで、
なんとか了承が得られた。

けれど、会場に着いたら、
バンドを担当してくれるスタッフが居ない。
事務所の社長の命令で、
みんな帰ってしまったのだ。

だから、彼は急遽アカペラで歌うことに。
歌う曲はスターリー。
今の彼が存在できる奇跡が、
そのまま綴られたような歌詞の曲。

それを彼はファンと、
何より愛する彼女のために熱唱した。

間奏部分にたどり着くと、
彼の元ピアニストのマネージャーが、
彼の歌に合わせてピアノの伴奏を始めた。
美しい慈愛に満ちた旋律に、
彼は歌の続きを乗せた。

そうして一曲が終わったその時、
彼は紫色に光り輝き、
花びらのように消え始めた。

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ありがとう。

ファンのみんなへの感謝を残し。

ありがとう。
きみに会えてよかった。

愛する彼女への感謝を残し。

2017年2月16日木曜日

7'sCarlet/叢雲ユヅキ

三木眞一郎さん演じる叢雲ユヅキの感想です。


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屍者をあるべき場所に還す。
それが本当の屍葬組のあり方なんだ。

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彼の父は街を牛耳る叢雲家の当主。
この奥音里では、梅雨が終わると、
伝説の通り屍者が蘇る。
蘇った屍者は、生者の命を奪い続けなければ、
この世に存在することが出来ない。
だから、叢雲家は表向きは自警団である
屍葬組を組織した。

屍葬組の仕事は死者の駆除。
屍者は塩をかけて火で燃やすと、
紫姓草の花の様に、
紫色の花びらとして散ってしまう。

その時、必ずと言っていいほど、
屍者は断末魔を上げる。
それは消える苦しみなのか?
消えてしまう悲しみなのか?

彼はそんな事を考えていた。

幼い頃から、街を守る為だと
屍葬組の頭を継ぐべく
英才教育を施された彼。

だから、それが正しくて、
それは自分の義務だと思っていた。

なのに、彼の屍葬組デビューの時に
出会った屍者により、
彼のその概念は覆された。

出会った屍者は烏丸さんの妻ツヅリ。
彼女は自分の夫の小説家デビューの直前に
命を落とし、
どうしても夫に「おめでとう」が伝えたくて
屍者として蘇った。

屍者は人を喰らう化け物。
そんな風に言われていたのに、
彼女は違っていた。

殺人衝動は体の中にあるものの、
理性で押さえ込んで、
愛する人に言葉を伝えたら、
そのまま消えたい。

そう彼に訴えた。
彼は最初こそそんなはずはないと、
聞く耳を持たなかったが、
彼女と話すうちに、彼女を信じてみたくなった。

そうして小銭がなくて
電話が出来ずに困っていた彼女に、
小銭を渡し、夫と話をする機会を。

彼女は彼に死んだ事を詫び、
自分のぶんも強く生きて
幸せになって欲しいと伝え、
最後に「おめでとう」と告げた。

けれど、そこで他の屍葬組のメンバーに見つかり、
彼が守ろうとはしたものの、
彼女は結局自分の意思で消える前に、
屍葬組により駆除されてしまった。

だから彼はまちがっていると思った。
彼女なら、言葉通り、
思いを告げたらあるべき場所に
自ら還ったはずだから。

そうして彼は屍者が蘇る理由、
そんな屍者を還す方法を考えるように。

そんな彼の思想を快く思わなかった彼の父。
その父により、彼は屍葬組の頭から、
一番下っ端にまで格下げされた。

それでも彼は考えていた。
蘇る屍者達を還す事は出来ないかと。

一人きりで抱え込んでいた彼の元へ、
兄を探しにやってきた主人公。
彼は彼女と出会った時に直感していた。
この出会いが全てを変えてしまうと。
そして、それが怖かった。

だから、彼女を遠ざけようとしていたのに、
どんどん近くなる彼女との距離に、
抗えないものを感じていた。
そうして気づくと彼女を大切に思うように。
彼女のお陰で、
彼を恨んでいた烏丸とも和解し、
彼のお陰で妻の言葉を聞けた事と、
妻の望むとおり強く生きる気持ちになれた烏丸は、
恩返しとして、彼のピンチを助けてくれた。

今年の屍者は風厘館に宿泊していた月読で、
彼を狩る時に不慣れなソウスケがミスをし、
そのために彼女が危なくなった時、
烏丸が現れ力を貸してくれたのだった。

そうして烏丸の協力により、
無事に月読を駆除。
その後、彼に感謝を述べて、
烏丸は街を去って行った。

月読が蘇った理由は、人を殺したいから。

出来れば屍者の意思を汲んで、
彼らが狩られる事なく還れるようにしたかった。
けれど、月読だけは例外として、
駆除され紫の花びらとして消えて行った。

消えた月読の荷物から、
彼女の兄の手帳が発見された事から、
彼女の兄は既に亡くなっていると推測された。

どこかで覚悟はしていたものの、
兄の死を知り、穴が空いた気分になる彼女。
けれどもう1人ではない。
命をかけて守ってくれる人が居るから。

-----

おまえの心に空いた穴は、
俺がそばで少しずつ埋めてやるから。
だからずっと俺のそばに居てくれないか?

2017年2月15日水曜日

7'sCarlet/櫛奈雫トア

森久保祥太郎さん演じる櫛奈雫トアの感想です。


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ぼくはずっと、長い間ずーっと、
きみに恋をしているんだ。
これは12年も前からの恋の病。

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彼には両親がなく、祖父母に育てられた。
2人はとても優しくて、
その頃の奥音里は温泉街として栄え、
彼の祖父母も温泉宿を営んでいた。

所がとある温泉宿で
死亡事故が起きた事を境に、
街は一変してしまった。

元々街を牛耳っていた叢雲家は、
街によそ者が入る事を嫌っていた。
だから、死亡事故が起きた事に乗じて、
街の温泉を廃れさた。

そうして全ての旅館を取り壊し、
最終的には叢雲家が風厘館と言うホテルを作り、
よそ者をそこで管理すると言う今の体制に。

温泉街が錆びれてしまった時、
彼は町おこしのために、
温泉街の人を元気にするためにと、
奥音里パンダを生み出し、
ネットなどで広げようと試みるも失敗。
結局彼の努力は実らないまま、
現在の閉鎖的な街になってしまった。

温泉宿を畳んでからの彼の家は、
子供の彼が見ても苦しい状況で、
学校ではイジメられるし、
家は叢雲家のお陰でそんな状態だしと、
彼の少年期はとても辛いものとなった。

そんな時、姉が
メガネを外したら可愛い顔をしてるからと、
彼の写真を芸能事務所に送った所、
トントン拍子にデビューが決まり、
彼は国民的アイドルグループ、
アークゼロのメンバーのエイトとして
生まれかわった。

元々いじめられっ子の彼に友達はなく、
1人神社で過ごしては、
ぼんやりして見たり歌を歌ったり。

そこに同じ年頃の女の子が現れ、
彼の歌を聞いてとても褒めてくれたのです。

今まで何をしても笑われ、
何をしてもイジメられてばかりの彼にとって、
彼女の喜ぶ顔は何よりのものだったから。

あの日、彼女に歌う事、
人に歌を聴かせることの素晴らしさを
教えられて居たから、
アイドルのエイトが居たのかも知れない。

その時にあげた瑠璃色のビー玉。
彼女は大学生になった今も、
それをどうやって手に入れたかは
思い出せないものの、
とても大切にもっていたのです。

ずっと12年間恋い焦がれた彼女との再会。
それは奥音里禁忌倶楽部のオフ会だった。

彼はエイトとしての顔を隠し、
トアとしてそのオフ会に参加。
オフ会と同時進行で、奥音里で行われる
ソロライブの準備に当たって居た。
その素性を隠したまま。

ライブは彼が言い出した。
悲しい思い出ばかりの故郷。
それでもこの街が好きだから、
逃げるように都会でアイドルになって自分が、
ここてわ過去と向き合って乗り越えて、
これからソロとして活躍するためのけじめ。

所が、奥音里では、
立て続きに転落事故が二件も起こり、
更には3件目の事件は
ハッキリと殺人と認定され、
エイトやスタッフの安全、
集まるファンの安全を考慮し中止の騒ぎに。

それでも、彼がマネージャーに頼み込み、
明日がライブだったから、
もう少し待って犯人が逮捕されたら…と、
条件付きでギリギリまで待ってもらう事に。

その後、彼女が犯人と思しき男に襲われ、
そこを彼が助け、
自警団に追われた犯人は、
捕らえるには至らなかったものの、
谷へと追い詰めた後、行方不明に。

それでもライブは
条件を満たして居ないと中止に。

そうして禁忌倶楽部は解散し、
彼も彼女も奥音里を後にする事に。

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これは運命だから。
ここで別れてもまたきみに会えるよ。
どこにいたって、必ずきみを見つけるから。

2017年2月14日火曜日

7'sCarlet/甘梨イソラ

柿原徹也さん演じる甘梨イソラの感想です。


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お帰りなさい、僕のお姫様

幼い頃、彼女は奥音里に居た。
昔の記憶が曖昧な彼女は、
そんな事は忘れてしまっている。
けれど、彼は決して忘れなかった。

だって、あの夏に彼は恋に落ちたのだから。
料理と彼女への永遠の想い。

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それはまだ彼が幼かった頃、
彼の誕生日を祝うためにと、
両親と共にフレンチを食べに行った。
父と母と、フルコースを
「美味しいね」と言いながら、
とても幸せな時間を過ごした彼。

だから、コースの終わりが近づくにつれ、
寂しくなってしまった。
こんな素敵な時間はもう終わるんだ…と。

一通り食事を終え、
夢が終わってしまった気分になった彼。
けれどその彼の目の前に、
色鮮やかなスイーツが現れた。

まだ夢は終わって居なかった。
美味しかった記憶も、幸せだった記憶も、
食事の最後を花火みたに彩るスイーツにより、
更に素敵な物に変わった。

凄い、これが夢の続きなんだ。

そうしてパティシエに憧れた彼。
でも、そこでは多分まだ憧れで、
本気でパティシエを目指すキッカケをくれたのは、
とある女の子との出会い。

彼女はこの街の人ではなくて、
夏の間両親が海外に行くために、
奥音里に預けられて居た。

ある日、彼はチョコドーナツを作ったものの、
母は忙しくそれを持て余して居た。
そんな所に現れた彼女。
匂いに釣られ、彼の家の庭へとやって来て、
彼のドーナツを食べて喜んでくれた。
彼にとって、初めてのお客さん。

夏の間しか居ないと言うその子に、
彼は色々なスイーツを食べさせたくて。
毎日違ったものを用意しては、
彼女を待つように。

そうして彼女は、
いつも大喜びでそれを平らげて居た。

そんなある日、
彼は彼女のためにタルトを作った。
イチゴが大好きだと言う彼女は、
イチゴタルトに大喜びで。
嬉しそうに頬張ったものの、
突然それを吐き出して苦しみ始めた。

彼はまだ幼くて気づかなかったけれど、
タルトに使ったイチゴは腐って居て。
それが原因で苦しんだ彼女。

自分のしたことに
ひどくショックを受けて居た彼の元に
元気になったら彼女が現れ、

この前はせっかく作ってくれたのに、
吐いたりしてごめんね。
また作ってくれる?

…と信じられない事を口にした彼女。

病院に行くほど大変な思いをしたのに、
彼のスイーツをまた食べたいと言ってくれた。

パティシエになろう。
彼女を喜ばせる美味しいスイーツを作ろう。

その時彼は決意したのです。

そうして奥音里禁忌倶楽部で再会したものの、
幼い頃の記憶が曖昧な彼女は、
彼の事を覚えて居ない。

それでも彼は彼女だと確信して居たから、
彼女に降りかかる危険から
必死に彼女を守ってくれた。

監禁と言う極端な手段に、
一度は彼を疑いそうになった彼女も、
献身的にお世話をしてくれる彼を信じて居た。
そうまでして守って居たのに。
ラー油がないことに気づいた彼が、
あの部屋から出て鍵を掛け忘れてしまった時、
彼女に傷を負わせた犯人が現れた。

事前に上で気絶させられていた彼だったが、
必死に彼女を助けに来て、
自らの腕と手を犠牲にして彼女を守った。

犯人ともみ合う中、
蝋燭が倒れ、監禁に使われていた部屋が燃え、
犯人との戦いで酷い傷を負った彼は、
炎の中で気を失い、
彼女が必死に彼を連れて外へ。

二人は無事保護され、
焼け跡からは犯人と思われる遺体が。
警察のデータベースにはない為、
焼死体の身元は分からないまま。

でも、二人とも助かった。
彼の手も神経に問題は無く、
これからも美味しい料理を作れる事に。

何が食べたい?と尋ねる彼に、
イチゴを克服したいから、
イチゴタルトがいい…と応えた彼女。

彼女のイチゴ嫌いは
自分のせいだと思って居た彼は、
その言葉に救われたのかも知れない。

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お姫様のご希望とあらば、
とびきりのものをご用意致しましょう。
だって君は、
あの頃からずっと、
僕の僕だけのお姫様だから。

2017年2月13日月曜日

神々の悪戯/アヌビス・マアト

梶裕貴さん演じるアヌビスの感想です。


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アヌビス、最近、夜遅い。
知りたい事、沢山あるから。

大好きだから、大切だから、
彼女に気持ちを伝えたい。
彼女が話すその言葉で、
アヌビスも「愛してる」と。

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エジプト神話の冥府の神であるアヌビス。
彼は死んだ魂が
転生するのにふさわしいか否か、
それを調べる事が仕事。

魂を調べれば、その人がいい事をしていたか、
悪いことをしていたかを知る事が出来る。

そうして彼は知ってしまった。
人は人を裏切り、だまし、
殺しあう生き物だという事を。
なのに、平気で彼に嘘をつく。
ただ転生したいがために。

だから人が苦手だった。
嘘ばかりつく彼らが怖かった。
信じられなかった。
互いに殺し合う彼らだから。

そんな彼が人を理解するためにと、
箱庭に連れて来られたものの、
警戒心の強さから、
教室への登校も叶わない。
寮に住む事もなく、
図書室でトトと共に過ごしていた彼。

けれど学園内を自由に動き回る彼は、
ある日彼女にその姿を見られてしまった。

俊敏な彼の動きを
しっかりとは捉えられなかったものの、
物音がして白いものが横切ったと話す彼女に、
学園の神たちは、
「学校の怪談」だと盛り上がり、
正体を突き止める事に。

そうして彼女と出会ったアヌビス。

出会いは森の中。
野生の犬が他の動物に襲われて
倒れていたのを見つけた時。
冥府の神であるアヌビスは、
苦しんでいるその犬を助けたかった。
殺して転生させてあげようと思った。

なのに彼女がそれを止めた。
まだ生きているのに殺すなんてヒドイと。

死は怖いものじゃないのに。
ただ転生するために必要な事なのに。


彼には彼女の言う事が理解出来なかったし、
人間なんてそもそも信じられなかった。
だから人の言葉の話せない彼だけれど、
精一杯に威嚇した。

そこにトトが現れて、
彼女と共に犬を助ける事になった彼。

治療の甲斐あり、犬は元気になり、
学園の中庭で飼われる事に。
元気になる前に外に出して、
また怪我をしないように。

そうして「カー」「バラバラ」
しか話せないアヌビスのためにと、
彼女と神様たちが
犬の名前をアヌビスも呼べるようにと、
「カー」と名づけてくれた。
そうしてアヌビスとカーのお世話始まった。

ずっと登校しなかった彼も、
カーのお世話にために、
登校するように。

そうして共に世話をする彼女とも、
次第に打ち解けるようになったある日、
カーと彼女と三人で遊んでいて転んだ彼に、
彼女が手を差し出すから、
「ありがとう」と言ったアヌビスの言葉が、
初めて彼女に言葉として伝わったのです。

そう、彼は人と同じ言葉を話す事は出来ない。
けれど、彼と理解し合う事が出来た者は、
彼の言葉を理解出来るようになるのです。

そうして怪我が完治して
カーを野生に戻そうとしたものの、
アヌビスとすっかり仲良しになったカーは、
そのまま学園に残る事に。

けれど、ある日そんなカーが居なくなり、
二人で探した所、出会いの森見つかったカーは
変わり果てた姿に。

おそらくそれははじめから持っていた病。
犬は死期を悟り、
飼い主にその姿を見せないというように、
カーもまた学園を離れ、一人死んでいった。

そんな突然のカーとのお別れに
耐えられないアヌビスは、
声を張り上げて彼女に当たり散らした。

だって、助けようって彼女が言ったから。
本当は病気で辛かったかもしれないのに、
勝手に助けたいと言い出して、
無理に頑張らせて。
そうして結局死なせてしまったんだから。

そんな彼に、
彼女はそれでも助けた事は後悔してないし、
カーに出会えて良かったという。

また神様たちも、葬儀をしてくれて、
それぞれカーに感謝の言葉を述べた。
会えて良かった、
君が居てくれた時間は楽しかった。
素敵な時間をありがとう…と。

カーは死んでしまったけれど、
過ごした時間は短ったけれど、
ここで生きて、みんなに愛されていた。
死んでしまった今も、
こうしてみんなの心に残る程に。

その事に気づいた彼は、
彼女の助けようという言葉が
間違っていなかったと、
そのお陰で、
自分もカーとの素敵な時間を過ごせたんだと、
気づく事が出来た。
やっぱり違う。
彼女はアヌビスの知っている人間とは
全然違う。


そう思った彼は、彼女と共に教室に行き、
以来、みんなと共に授業を受けるように。

お昼には神様みんなが机をくっつけて、
様々な情報交換をして、
アヌビスに知識を分けてくれる。
そんな風に、
箱庭に呼ばれたみんなが協力して、
卒業を目指す日々。

そんな時、彼はトトに教えてもらった。
森の奥にある果実の事を。

その実を見つけて大切な人に食べさせると、
二人はずっと一緒にいられるんだとか。

彼女が好きだったから。
だから一緒にいたいと願った。
そうして彼はその実を探す事に。

そして更に、彼女が好きだから、
大切だから、愛する彼女と同じ言葉で、
この気持を伝えるためと、
夜遅くまでトトと言葉の勉強をした。

そんな彼が
森に実を探しに出た所を見かけた彼女は、
気になって後を追いかける。
そうして彼が実を手にする直前に、
思わず応援の言葉を掛けてしまい、
二人で実を発見。
その実を彼女に食べてほしいという彼と、
二人が一緒にいられる実ならば、
二人で食べようと、
共に真っ赤のその実をかじると、
突如実が黄金に輝いた。

それはまるで
エデンの園の禁断の果実のように。
そうして黄金の実をかじった彼に、
愛してる」と、だから一緒に居てほしいと、
自分と同じ言葉で伝えられた彼女は、
自分も同じ気持だと告げた。

そうして互いの思いを交わした時、
アヌビスの枷がハズレ、神の姿に。

その後、彼と共に飛んで学園に戻った二人。
ところが、最初はアヌビスに
手を引かれて飛んでいた彼女だったが、
気づいたら自力で空を飛んでいた。

その実は人を神にする禁断の果実。
アヌビスの願いを叶えるために、
トトが特別に教えてくれたもの。

そうして神となった彼女は、
これから先もずっとずっと、
愛するアヌビスの傍で、
共に支えあいながら生きて行ける事に。

2017年2月12日日曜日

神々の悪戯/ロキ・レーヴァテイン

細谷佳正さん演じるロキの感想です。


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なんで初めて本気で
好きになったアンタが、
よりによって人間だったなんて!

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イタズラ好きのロキは、
北欧神話の世界でも、
誰彼構わずイタズラしていました。
そんな彼の行動を、
周りの神々はよく思わず、
気づくと彼はひとりぼっち。

けれどそんな時出会った光の神バルドル。
彼もまた誰からも愛されるその特性の為、
常に大勢に囲まれながらも孤独を抱えていた。

そんなバルドルに対しても
彼はいつものようにイタズラをした。
きっとみんなと同じように、
怒ったり呆れたりされると思ったのに。

バルドルだけは違っていた。
彼の仕掛けるイタズラを
いつも楽しんでくれた。

皆に愛されるが故に孤独だったバルドルに、
彼のようにイタズラをして来るものなどなく、
だから嬉しかったのかもしれない。

まるで必然だったかのような二人の出会い。

ともに孤独だった二人はそうして親しくなり、
トールを含めよく三人で過ごすように。
それはとても暖かく楽しい時間だった。

なのに、そんな時間は
そう長くは続かなかった。
バルドルは不死身でありながら、
不治の病に冒されていたから。

いつもひとりぼっちだったロキに、
やっと出来た大事な大事な友達。
なのにバルドルとのその関係は、
理不尽な不治の病によって
引き裂かれようとしていた。

箱庭での時間が限られているのなら、
一緒に北欧神話の世界に来れば済むと、
そこまで考えていたのに。

彼女が人間だと知ってしまった。
大切なのに、愛してるのに。
失うことが怖いほどに。

だって今まで唯一大切だと思ったバルドルも、
そしてもう一人やっと出来た最愛の彼女も、
すぐに彼を残して居なくなるのだから。
またひとりになってしまうのだから。

ひとりは嫌だ。
ひとりは怖い。
ひとりは寂しい。


誰かと過ごす温かさを覚えた彼は、
もうひとりには戻れない。
だから、箱庭で彼女と出会い、
ともに過ごす時間のなか、
彼女をとても大切に思ったのに。
愛おしいと思ったのに。

人間が嫌いだったロキ。
けれど、悲痛な叫びをあげたのは、
それだけじゃなくて。
どんなに愛しても、人間が相手では
重ねられる時間の長さが違うから。
彼女もまた彼の手をすり抜けるように、
その命を終えてしまう。

だから戸惑ってしまった。
バルドルとの別れだって、
まだ全然心の準備も出来てないのに。

なかなか人に理解されない彼を
理解してくれた大切な人たちは、
ずっと彼とは居られない人ばかり。

悩み苦しんだ末に気づいた。
離れようと思っても、
手放そうと思っても、
そう出来ない程に彼女を愛している事に。

だから、たとえ限られた時間だとしても、
彼女を愛しているから、
その時間を大切にしたいと心から思えた時、
彼の枷が外れ、卒業出来る事に。

そうして彼女とともに北欧神話の世界へ。
バルドルとトールと、四人で過ごす日々。
それは学園でずっとこうしてみんなと
…と彼女が望んだそのもの。

人との寿命が違うから、
別れの日は訪れるけれど、
二人で、仲間と過ごせる暖かい時間を大切に、
1つ1つ思い出を
積み重ねていくことでしょう。

2017年2月11日土曜日

神々の悪戯/アポロン・アガナ・ベレア

入野自由さん演じるアポロンの感想です。


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君じゃない。
そう、違う、君じゃないんだ。
僕には愛する人が居るんだ。
カサンドラという女性が。


だから最初は
彼女とカサンドラが似ているからと、
その面影を重ねていたのに。

彼は気づいてしまった。
どうしようもなく彼女に惹かれている事に。
カサンドラではなく、
ここで共に過ごした彼女に。

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それは文化祭での出来事。
クラス対抗で舞台を使い、
互いの演目を競い合うイベントで、
アポロンたちのクラスは演劇をする事に。
脚本は定番のシンデレラ。

王子役はアポロンで、シンデレラ役は彼女。
元々生徒会長と副会長して、
共に過ごすことの多かった二人が、
今度は演劇の練習のために、
更に共に過ごす時間が増えた。

何度も何度も練習した。
互いが互いを想うセリフを。

それは台本の中のセリフだったのに。
気づかないうちに
どうしようもなく惹かれていた。
だからきっとセリフには
沢山の想いがこもってしまった。

それでもまだ気づかずに居られたのに。

本番で他のクラスの出来が予想よりいいからと、
不安を感じた監督のロキが、
舞台にはハプニングが必要だから…と、
二人にキスをするように
指示した事がキッカケだった。

舞台の幕があがり、
問題なく物語が進み、
ついにキスを指示されたシーン。

いつも以上に熱のこもった
芝居をするアポロンと彼女。
もうそれが演じているのか
本心なのかも分からないほどに。

そうして互いが想いを交わし
見つめ合ったその時、
ロキから「キス!キスだよ!」と指示が。

その声に応えるように、
彼女にキスをしようとしたその時、
彼はハッキリと理解してしまった。

あぁ、僕は彼女の中に
カサンドラを見ていたつもりが、
いつしかこんなにも
彼女本人に惹かれていたんだ
…と。

このままではいけない。
彼女から離れないと。


キスをしてしまったら、
もう気持ちは止められないから。

だから彼は「君じゃない
そう呟き彼女から離れたかと思ったら。

ごめん、君じゃない。悪いのは僕なんだ…
そう言葉を残し、
舞台の袖へと去ってしまった。

訳も分からないまま、
キスを拒まれた彼女は、
自分自身が拒絶されたかのように感じ、
上を向いていないと涙が溢れてしまいそうに。

そうしてそのまま舞台は終了。
最後まで演じきる事が出来なかった彼らの舞台は、
評価無効となり、優勝を逃した。

自分のせいだから…という理由から、
彼はその日
生徒会長を辞めてしまった。

その後、彼女は熱で倒れ寝込んでしまい、
その間、彼はみんなと言葉も交わすことなく、
ただ痛々しい程に勉強に励んでいた。

-----

アポロンは
有能過ぎるが故に孤独なんだ。

そう教えてくれたハデスは、
彼女をお見舞いに来て、
アポロンの様子を話、
力を貸してほしいと頼んだ。
そうして再び彼がみんなの働きにより、
生徒会長に戻り、
生徒会長して卒業を目指す!と宣言。

未だ一人卒業見込みがもらえていない彼は、
彼女と共に個別で勉強をする事に。

-----

一番人間に理解があるように見える彼。
けれど、彼には
悲しい未来が待っていた。

それはゼウスが教えてくれた未来の話。
アポロンが心惹かれているカサンドラ。
彼女に気持ちを伝えたくて、
彼女に神の力を与え、
自分に少しでも近づいてほしいと考えた彼。

ところが、人間に神の力は大きすぎた。
過ぎた力は、形を歪めてしまい、
本来未来を予知する能力とは、
自分の未来が見えないものなのに、
カサンドラには見えてしまった。
アポロンと結ばれない未来が。

だから傷つきたくないと、彼を拒絶した。

今まで沢山悲しい別れを繰り返してきた彼。
彼の愛した人は、みんな植物になってしまった。
彼の愛から逃れたくてそうなったものもいれば、
死して、その屍が植物になったものも。

そんな数々の別れと
報われない想いに嘆いた彼は、
太陽神の力を使い、
人々を寄せ付けず孤独を創りだした。

けれど、彼は太陽神だから。
人を寄せ付けないようにと力を使えば、
人間界に影響が出てしまう。
干ばつが続き、
作物が実らず人々は飢えて苦しんでいた。

そんな中、諦める事なく、
祈りを捧げ続けてくれたカサンドラ。
そんなカサンドラの姿に惹かれたのに。
彼女だけは何があっても、
自分から逃げない、
自分の前からいなくならないと思ったのに。

信じた相手が自分を裏切る。

その現実に耐えられないアポロンは、
トロイア戦争で神の力を駆使し、
沢山の人々を死に至らしめてしまう。

そんな未来が彼を待っている。
そう、今のままなら。

だからそうならないように…と頼まれた彼女。

彼女なりに考えて
人間の負の部分を教える事に。

所が、人を理解し愛するが故に
更に憎しみが深くなるのか、
彼の状況は良くなるどころか
悪化し途方にくれてしまう彼女。

そんな彼女にメリッサが教えてくれた。

思い切って全部彼に話してしまえ…と。
彼を待つ未来の事を。

彼が傷つき容赦なく
人の命を奪った話を知っている彼女は、
そんな事をしたら
自分の身が危険かも知れないと思った。
おまえさんたちの絆ってのは、
その程度のもんなのか?


けれど、そう言うメリッサの言葉に励まされ、
全てを話すことに。

そう、二人には絆がある。
ずっと生徒会の活動を
互いに支えあい頑張ってきた。
だから私達なら大丈夫
…と信じて。

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ところがその話を聞いた彼は
怒り狂ってしまった。
枷の制限を超えて神の姿となり、
彼女を焼き殺してしまうのでは?
と思うほどの力の怒り。

そうして
近づくな!僕の前からされ!
と怒鳴る彼に、
それでも彼女は手を伸ばした。

だって彼が好きだから。
彼が愛しているのは
自分ではないと知っても尚、
彼女は彼が好きだった。
だから辛くても乗り越えて、
そして本当の幸せを掴んで欲しいと。

君は自分を愛しても居ない
男のために死のか?


彼はそういうけれど、
それでもいいと彼女は思った。

あなたが幸せになれるのなら、
無事にこの学校を卒業出来るのなら、
私一人の命でそれが叶うのなら、
ここで死んでも構わない
…と。

カサンドラに似ていると思っていた。
でも、違う。
彼女はカサンドラとは全く違う。
どこまでもただまっすぐに
僕を僕だけを想ってくれる。


きっと他の誰もが
自分を見放した時が来ても、
彼女だけは、
ずっとその手を差し伸べてくれる。
僕を信じ、愛しつづけてくれる。


そう信じられたその時、彼の指の枷が外れ、
彼は問題を乗り越える事が出来たのです。

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全員そろって無事に迎えた卒業式。
卒業後は、
ここに連れて来られたあの日時に、
自分の本来あるべき場所に
戻して貰える事になっていた彼女。
けれど、ゼウスとトトの計らいで、
愛する彼と共に彼の世界に。

生きる長さは違うけれど、
この命尽きるまで、
彼だけを愛すると誓う彼女と、
最後の時まで、君だけを愛するよ…と誓う彼。

神と人間、二人は全く違うもの。
だからカサンドラは
神としての彼を愛した。

けれど彼女は違う。
神としてではなく、
彼という存在を愛してくれたから。
だからきっと二人なら、
幸せに暮らして行く事でしょう。

2017年2月10日金曜日

あやかしごはん~おおもりっ!/木邑浅葱

石田彰さん演じる木邑浅葱の感想です。


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ループする時の中、
何度も何度も君を見て来た。
だからこれからも
ずっと君を見て居たかった。
でも、もう限界みたいだ。

君と出会えて幸せだったよ。
だから今度は君の番だ。
幸せになるんだよ。

………たとえその未来に
僕が居なかったとしても。

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8月20日。
母を亡くし
一人ぼっちになってしまった主人公の元に、
吟さんがやって来た。
あの村で一緒に暮らさないか?と。

そうして8月31日から
お世話になる事になった彼女。

吟さんが彼女の元へ来たあの日、
紅葉村では土砂災害が起き、
彼が村に辿り着いた時、
村の様子は変わり果てていた。

大切な人たちは
みんな土砂に飲み込まれて亡くなり、
生き残ったのは、村を離れていた吟さん、
神様、そして12人のあやかしたち。

最愛の息子を土砂で亡くした吟さんをはじめ、
あやかしたちはみんなこの村が大好きだった。
人とあやかしとが共存する
優しく温かい紅葉村が。

そうして吟さんの悲しい願いに、
村を愛する12人のあやかしも賛同して、
みんなの妖力と、
1000年も村を見守り続けた
桜の木の記憶を使い、
虚構の村を創りだしたのです。

1000年もの記憶を持つ桜。
それがあの狂い咲いた桜の正体。

その虚構の紅葉村では、
吟さん達を除いた他の村人もあやかしも、
みんな既に亡くなっている者ばかり。
普通に起きてご飯を食べて
学校に通っていても、
本当の未来に、彼らは存在していない。

そうしてその村では、
おかしな時間のループが始まった。
吟さんの望みは息子の成長。
綴くんの誕生日は3月10日。

そのせいでなのだろうか?
8月20から3月9日を
延々とループする村の時間。
ただ変わることなく、それが続いている中に、
彼女だけが唯一外からのお客だった。

あの村は桜の記憶からできているから、
桜に記憶のない一人の少女の存在は
大きな負荷を与える事に。
ただ延々と続くループが、
予想より早く限界を迎えてしまった。

彼女が何度も何度も繰り返す時間の中で、
様々な人やあやかしを
その優しい心で救ううちに、
桜は散り始め、少しずつ枯れ始めた。

元々神様が永遠に続けては、
吟さんたちの妖力がもたず、
彼らが命を削る事になるから
…と制限をかけていたものの、
外部からのお客である彼女の存在が、
その制限に到達する時間を
予想以上に早めてしまった。

それと同時に、
このループする時を管理するために生まれた、
桜のあやかしの浅葱くんや神様が、
何度も繰り返す時の中で、解決策を探していた。
その解決に必要なものを持ってきたのもまた、
他でもない彼女だった。

それは昔、まだ本当の時間が流れていた紅葉村に、
幼い彼女が訪れたあの夏の日。
宝物のくまの目が壊れてしまった彼女を見かねて、
吟さんが大事にしていた石を
目の代わりにしてくれた。
その石は1000年前に陰陽師だった真夏さんから、
1000年前の吟さんがもらった石。

長い年月を経て、
元々力のあるその石には、
沢山の力がためられ、
それを謡と詠、
二人の狛犬の失われた目にしよう…と。

それが彼の見つけた解決策。

狛犬には守護の力があるから、
二人が完全体であれば、
土砂災害は事前に察知され、
避ける事が出来たのに。
信仰の薄れた人間達により、壊された片目、
そのせいで力を削がれた双子には、
土砂災害を知る事が出来なかった。

だから枯れかけた桜と、
尽きようとしている夢の世界、
その為に力を失いつつある浅葱くんだったが、
彼女を過去に飛ばす事で、
土砂災害の前に双子の失われた目に、
くまの目になっている石を
嵌めて欲しい…と頼んだ。

そうする事で、
記憶は全てリセットされてしまうけれど、
新しい未来が開けるから…と。
力のある石が彼らの目となり、土砂災害を免れ、
そうして君の一番望む未来にたどり着けるよ
…と。

吟さん、12人のあやかし、神様、
そして浅葱くんから使命を託された彼女は、
彼らの力で過去へと飛んで、
双子の狛犬に石を託し再びあの紅葉村へ。

時を飛ぶ真っ白な空間。
そこには彼と彼女の二人きり。

君に出会えてしあわせだったよ。
多分僕は
君に恋をしていたんだと思う。


…と言うのです。

そうして自分はループする時の管理者だから、
あの災害の起こっていない未来には
本来存在しないから、
だから君の未来にいない…と。

そう告げる彼は、
消える事などとおにわかっていたのに、
いざその時が来ると、
名残惜しく思ってしまう。

だってずっと見て来たから。
何度も何度も繰り返す時間の中で、
どの時間も彼女は精一杯全力で生きてきたから。
その強さが眩しくて、
彼はそこに惹かれていたから。

だからもっともっと、
彼女を見守っていたかった。
災害のない未来で、
彼女がどんな風に笑うのかを。
そうして生まれてからの時間は短い彼ですが、
彼女からもらった
沢山のしあわせをその胸に抱え、
紅葉村を救うため、一人消えて行った。

だからどうか、
彼女が辿り着いた平和な未来のその先に、
違う形で生まれて来た彼と、
もう一度どこかで巡りあえますように…。

-----

ねぇ、今度生まれてくるときは、
また君に出会いたいよ。
だから、その時まで、またね…。

2017年2月9日木曜日

あやかしごはん~おおもりっ!/伊吹萩之介

水島大宙さん演じる伊吹萩之介の感想です。


-----☆★☆-----


一人で食事をする事が多かったから、
人がいると食事が出来ないんだ。

-----

そう話す彼は、小さいころにお母さんと、
そのお腹の妹を亡くした。

それはまだ彼が小さかった頃、
大きなお腹のお母さんと
神主の父、そして祖母。
家族仲良くしあわせに暮らしていた。

所がある日、母の定期検診の日、
父が運転する車が事故に巻き込まれて、
父は意識不明、
母は命を落としてしまった。

それだけなら
ただの事故死で済んだのですが、
その後、とても不思議な事が起こった。

当時の彼は何も知らなかったが、
亡くなったお母さんに
ミネというあやかしが憑依してしまい、
ミネは亡くなったはずのその体を、
自分が棲まう森の奥まで連れて来た。
その体に憑依したまま。

憑依した時に彼の母の感情が入り込み、
お腹の子供や家族の事ばかりを
気にいしてるその心に触れ、
どうしてもお腹の子供を
助けてやりたくなったから。

そう、とても優しいあやかしだった。

そうして森の他のあやかしの力を借り、
死んでいるはずのその体を2ヶ月保ち、
森の奥で、彼の誕生日と同じ2月1日、
予定日通りに女の子を出産。

子供を産んだミネは、
長期間の憑依と出産で力尽き、
その赤ん坊の名前が桜だという事を告げ、
亡くなった。

その出産に立ち会った鵺が、
子供を哀れに思い、
村の古本屋の店主が
あやかしを見る目がある…という噂を頼りに、
彼のもとに赤ん坊を連れていき預ける事に。

そうして鵺から教えられた
桜と名付けられた女の子は、
立派に成長した。

一方、そんな事など知らない
ニンゲンの世界では、
亡くなったはずの彼の母の遺体が消えたのは、
あやかしの仕業じゃないか?とか、
母がそもそもあやかしだったんじゃないか?
そんな噂が飛び交う中、
空の棺で葬儀が行われた。

父は目を覚まさず、家には祖母と二人きり。
けれど、お腹の孫も息子の嫁も亡くし、
息子は意識不明で
いつ目覚めるとも知れない状態に、
祖母は気を落とし、部屋に閉じこもり、
あまり食事も摂らなくなってしまった。

少し前までは
家族で食卓を楽しく囲んでいたのに。
今ではそれが嘘のように、
ひとりきりの食卓で食事をする彼。

辛くて寂しくて。
いなくなった母の死を
まだ理解も出来ていない彼は、
毎日母の帰りを待っていた。
たったひとりで。

それでも母が戻らないので、
とうとう2月1日、妹が生まれる予定日の日、
帰れず困っているかもしれない!…と、
幼い足で、母を探しに出かけた彼。

村中を探しまわった彼は、
気づいたら森の中に。

次第に日が暮れて、寒さも増してきて、
緊急の食事にと持ってきた
ビスケットも食べつくし、
お腹も減って心細くなった彼。
それでも見つからないお母さん。

辛くて怖くて寂しくて、
彼は「お母さん!」と
泣き出してしまった。

丁度その頃、出産を終えたミネは、
その声が憑依している体の主の息子だと知り、
最後の力を振り絞り、息子のもとに。

何も知らない彼は、
そのまま森の中で眠ってしまい、
目覚めると、森の入口に居て、
傍には母の亡骸があった。
そうしてお腹の中からは、
赤ん坊が消えていた…と言う事件に。

だから彼はあやかしに会いたかった。
母のその事件の真相が知りたかったから。
母のお腹から消えた妹が
どうしてるのか知りたかったから。

それに、森で眠ってしまったその時、
彼は夢を見ていたから。
それはとてもしあわせな夢で、
あの事故がなかったら、
伊吹家に普通にあっただろう未来の夢。

病院で無事に出産した母の元に
父と祖母と駆けつけると、
可愛い赤ちゃんが居て、
名前は桜というのよ…と、
嬉しそうに教えてくれた母の夢。

だから彼はどこかに妹が居るのでは?と、
ずっと気になっていた。

そんな彼の探し求めていた真実を
見つけてくれたのが、転校生の主人公。

本が好きな彼女が、
クラスメイトの紹介で訪れた古本屋、
そこで彼にとても良く似た
「桜」という名前の女の子と出会った彼女。
その子はその店主のお孫さんだった。
既に彼から不思議な体験を聞いていた彼女は、
妹の名前の夢の話も知っていて。
だから気にってしまい、
何度も何度も古本屋に通い、
桜ちゃんの事を店主に訊ねてみるのですが、
話すことはないと、追い返される毎日。

それでも根気強く通い続けた事で、
やっと真実に辿り着いた。

その後、妹は
育ててくれたおじいさんが心配だから…と、
そのまま古本屋さんで暮らしてはいるものの、
時折おじいさんも含めて、
家族で食事をしたりする間柄に。

彼の事を伊吹さん
…なんて他人行儀に呼んでいたのも、
今ではお兄ちゃんと呼ぶように。

いつか家族で食卓を囲むのが
夢という彼でしたが、
思いがけない形で、それが実現した。

その後、彼女と正式に恋人になった彼は、
自分はあやかしが見えないものの、
彼女が見える世界を共有したいと、
見えないあやかしと
彼女が挨拶を交わしていると、
真似て声をかけてみたりと、
見えないながらも交流を深めてる。

そんな風に見えないながらも
妹を助けてくれたあやかしと、
少しずつその世界を近づけて
暮らしていく事でしょう。
彼女と二人で。

2017年2月8日水曜日

あやかしごはん~おおもりっ!/犬嶌謡

下野紘さん演じる犬嶌謡の感想です。


-----☆★☆-----


しあわせだなって思ってさ。
こうしてお前といて、
お前に触れられるなんて、なんか夢みてぇ。

おかしな謡、夢なんかじゃないよ?
彼女はそう言ったけれど、
それは本当は夢なのかも知れない。
狂い咲いた桜のみせるうたかたの夢。

-----

根暗女。
吟さんに護衛を言いつけられた直後、
心を開かず、
みんなと居る事を好まない彼女を
彼はそんな風に呼んでいました。

みんなが親切にしてるのに、
それをわかろうともしない、
どんなに気を使っても、
まわりのそんな気持ちも平気で突っぱねる。
そんな彼女の態度に腹が立って仕方がない。

なんでこいつは吟さんがここまでしるのに、
全然分かんねーんだよ。


そんなイライラをぶつけては
口論になる二人。

それでも、彼は、彼女を見捨てなかった。
ニンゲンは嫌いなのに。
昔からいつも嫌いだからと突き放せない。
だからあやかしがニンゲンを襲えば
守ってしまうため、
あやかしからも煙たがられる。

でも、それがオレたち狛犬の使命だから。

だからいつもどっちつかずの
中途半端な存在。
そんな自分の立ち位置が、
本当はイヤだった。

そうして平行線をたどる
彼女との関係だったが、
女郎蜘蛛と彼女の出会いが二人の転機に。

狭霧に会いたい彼女と、
危険だからと止める吟さんたち。
言われるがまま、部屋に戻ったものの、
寂しい気持ち、孤独な気持ち、
それを理解してくれるのは狭霧だけ
…と頑なに思い込んでいる彼女は
全く納得出来なかった。

そうして二度と会うな
…と止められた日の夜、
一人ぽんぽこりんを抜けだして
狭霧の元に向かおうとする
彼女を止めた彼。

納得いかねーなら、
なんで吟さんに喰ってかからねーんだ。


彼は教えてくれた。
ちゃんと言葉で伝えないと
何も伝わらないと。

でも、彼女はずっと一人だったから。
仕事の忙しい母とは、話をする事もなく、
だから母が死んだ時にも、
悲しいのか分からなくて。
泣くことが出来なかった。

そんな彼女は気味が悪いと、
親戚が彼女を避けて、
一人で居た所を吟さんに引き取られたから。

そんな彼女はいつも思っていた。
私の言葉なんて誰も聞いてくれないと。

でも、それは決めつけだった。
ちゃんとここには居たのだから。
彼女の言葉にしっかりと
耳を傾けてくれる人が。
謡という優しい狛犬のあやかしが。

そうして狭霧が
悪いあやかしだなんて信じられないから、
自分で話して確かめたいという
彼女の思いを聞き届けた彼は、
そのまま彼女と狭霧の元へ。

その後、真夏さんの護符で
撃退された狭霧でしたが、
護符の効果か、
人を喰らいたい気持ちはなくなった。

ただ、毎日自分に会いに来てくれた彼女が、
狭霧がお母さんだったら良かったのに
と言った彼女が、
本当に可愛くて仕方なくて。
だからぽんぽこりんに
ご飯を食べながら、
彼女の様子を見に来るように。

そんな風に狭霧と素敵な関係を築けたのも、
全部謡のおかげ。
彼が教えてくれたから、
ちゃんと思いを伝える事の大切さを。

以来、人と向き合う事が
少しずつできるようになった彼女の周りには、
気づいたら、謡と詠だけでなく、
萩之介くんや蘇芳くんなど大勢の仲間が。
そうして彼らと共に
高校生活を楽しめるようになった。

それも全て謡がくれたもの。
彼に出会えたから、
彼が教えてくれたから、
自分は変わる事が出来て、
たくさんのしあわせを手に入れた。

そんな彼女が、
彼を好きになるのは多分とても自然な事。
そしてまた彼も、
みんなと溶け込んで
笑顔を見せるようになった彼女を、
とても大事に思うように。

それでもニンゲンとあやかしだから。
自分はニンゲンでもあやかしでもない、
とても中途半端な存在だから。

そんな彼の中途半端な立ち位置が、
大切な彼女を
あやかしのいざこざに巻き込んでしまう事に。

-----

それは彼女と出会ったあの日、
彼が追いかけて山に返した鬼。
その鬼が彼を恨み、
いつか仕返しをしようと力を蓄えていた。

彼女への気持ちを自覚して、
うまく話せなくなった彼は、
なんとなく顔を合わせづらくて、
一人桜を見てい時、鬼の復讐が始まった。

謡とのぎこちない様子を心配した吟さんに、
仲直りができるように…と
彼の好きな肉料理を作ろうと提案されて、
彼の帰りを待っていた彼女。

所が一向に返って来る様子のない彼。

そうしているうちに、日がくれ、
それでも戻らない謡の危険を
知らせる鈴が鳴り響いた。

双神の鈴。
一対のそれは、二人で1つずつ持つと、
片方が危険に陥ると
鈴の音を鳴らして知らせてくれるもの。

そうしてその音に
居てもたっても居られなくなった彼女は、
詠と共に鈴の音を頼りに彼を探しに。

辿り着いたそこには鬼が居て、
詠の助けを借りて、
なんとか謡に出会えた彼女。
ケガをしながらも、
彼を助けに来たその姿に、
彼は「ここから逃げろ。
そしてこの村を出るんだ
」と、
自分から離れるようにと。

ただ大切な人を守りたかったから。

自分があやかしであるせいで、
こんな危険な事に
あいつを巻き込む訳にはいかねぇ。
だって、あいつは
何百年もこの村にいるオレが、
初めて出会った大切な女だから。

そうして彼女を逃し、
一人鬼と対峙する彼。
この命と引き換えにしてでも、
大切なものを守りたいと思ったから。

けれど、力を蓄えて
復讐の時に伺っていた鬼のそれに、
謡のボロボロの体では全く敵わない。
もうダメかもしれない…と思った時、
逃がしたはずの彼女が戻って来た。

私を先に食べればいい」と。

バカなのか?
オレがどんな思いで
逃がしたと思ってるんだ?


驚いた彼は、
必死に彼女を守ろうとするのですが、
彼女が捕まってしまい、
今にも鬼に食われそうに。

それでも助けないと!
何をしてでもあいつを
…あいつだけは守るんだ!


彼の必死な思いに応えるかのように、
体の奥底から力が湧き上がり、
片目を失った彼では
決して変じる事の出来ないハズの
本来の狛犬の姿に変じた彼。

そんな彼のまとう光も、
発する力もとても強くて、
鬼はアッサリと彼に倒されてしまった。

良かった…と安堵したのもつかの間、
狛犬に変じた事で
全ての力を使い果たしたのか、
そのまま倒れてしまった謡。

そうして後から駆けつけてくれた
吟さんや詠とともに、
彼を無事に村に連れ帰る事は出来たものの、
その後一週間、
彼は全く目を覚ます気配もない。

このまま二度と謡が目覚めなかったら。
最悪の事態ばかり想定しては、
涙をながす彼女。

それでもどうしても、
もう一度彼に会いたくて、
彼の声が聞きたくて、
寝ている歌に話しかけているうちに、
知らず眠りに落ちた彼女。

そんな彼女の夢の中、
見えるのはあの桜の木。
美しく咲き誇るそれが、
強い光を発した直後、
桜は全て消え失せて、
ただ雪をまとった木が残された。

その木の根元にうずくまる人影が一つ。
それは彼女が知っている人影。

声をかけようと思った途端、
大好きに声に起こされたのです。

そう、会いたかった彼が、
聞きたかった声で、
彼女を起こしてくれたのです。

やっと目覚めた彼と気持ちを確認しあい、
穏やかな日々を迎えた二人。

あやかしとニンゲンの恋は
本来はご法度とされているもの。
それでも愛してしまったから。
だから彼は彼女を連れて、神様の元へ。
恋人になった…と報告をしに。

二人が覚悟の上で決めた事なら…と、
手を繋ぐ二人を祝福してくれた神様。

そうして神社の境内で話をしていると、
風に乗った桜の花びらが二人の元へ。
その花びらに、ハッとする彼。
何があったのかはわからない。

ただ訊ねる彼女に、
しあわせだなって思ってさ。
こうしてお前といて、お前に触れられるなんて、
なんか夢みてぇ

そう言った彼は、どこか儚げな笑を見せる。

そんな二人を遠くから眺める神様が、
残された僅かな時間を
大切に生きるのじゃよ
」と小さく呟いた。

2017年2月7日火曜日

あやかしごはん~おおもりっ!/芹ヶ野真夏

興津和幸さん演じる芹ヶ野真夏の感想です。


-----☆★☆-----


俺たちは結ばれてはいけない
運命なんだ。

-----

時を遡ること千年、平安の世。
そんな昔に出会っていた
彼と彼女。

陰陽師の藤原真夏、
それがその当時の彼。
悲しい運命の始まりの出会い。

彼に引き取られ、
大事に育てられた姫は、
都でも評判の姫に。
そうしてそんな噂を聞きつけた帝が、
彼女を側室に迎えたいと言い出した。

陰陽師として帝に使える彼にとって
帝の言葉は絶対だった。
どんなに大事な姫でも、
彼女を帝の元に嫁がせなければならない。

彼女も帝の命が絶対と知りつつも、
顔も知らない人のところに嫁いで
真夏さまと離れたくない…と、
泣いて頼んだ。

何もかも捨てて、
逃げればよかったのかも知れない。
そうすれば運命は
変わっていたかも知れない。

何度も繰り返した転生の中、
彼は幾度も後悔した。

けれど、その時は
守るべき家や家来たちも居る、
立場のある彼は、
そんな行動に出られる訳もなく、
姫もまた、頭ではそれを理解していたので、
互いが互いを想い合いながらも、
永久の別れとなった二人。

そこで終わるハズだったのに…。

帝の寵愛を一身に受ける姫を
妬ましく思った者により、
姫は呪いを掛けられてしまった。
そうして病に倒れた彼女は、
再び藤原の屋敷に戻って来た。

そうして二度と
会う事が叶わないと思っていた二人が、
悲しい形で再会を果たしてしまう。

呪いが原因だと分かりながらも、
彼の陰陽師としての技術も知識も、
その呪いを解く事が叶わないまま、
次第に弱りゆく彼女。

そうして残された時間を
以前のように寄り添い合い共に過ごす二人。

僅かな時間は瞬く間に過ぎ、
姫は彼を残して旅立って行った。

そうして彼を襲う一度目の後悔。

何もかも捨てて、
逃げればよかったのかも知れない…と。
だって、そうしていたら
姫は呪われる事などなかったから。

けれど、自分にそんな勇気がなかったから。
そのせいで愛する姫は呪われて、
その命を奪われてしまった。

その後悔の念に耐え切れなくなった彼は、
姫の居ない世界で
生きる意味を見出す事が出来ないまま、
後悔の想いと共に、入水自殺を。

そんな彼の自分自身を呪う気持ちが、
長い時を経て獏というあやかしに。

その後、何度も転生を繰り返し巡りあう二人。
けれど、いつの時代も
二人が結ばれる事はなかった。

出会い、心がひかれあうと、
彼女が死んでしまう。
だからいつしか思うようになった。
近づいてはいけない。
想い合ってはいけない。
好きだけど、好きだから、遠くから見守ろう。

そうして彼は、
幾度も繰り返された悲しい運命の中、
孤独と戦い生き続けた。

悲しい運命には終わりなどないかのように、
再び巡りあってしまう二人。
そうしてまた互いが惹かれ合った時、
彼女は深い眠りに就く。

眠る夢の中、獏に出会った彼女は、
繰り返された幾つもの悲しい別れを
獏により見せられた。

あぁ、そうだったのか?
真夏さんに会った時に感じた、
一緒に居る時に感じたあの懐かしい気持ち、
それはこういう事だったのか。

そう納得した彼女は、
自然と理解してしまった。
このまま目覚める事なく、
自分は死んでしまうのだろう…と。

そうして最後に見せられた始まりの時。
始まりのあの出会いと、悲しい別れ。
その後の彼の自殺。

見せられたその中に、彼の孤独を感じ、

守られるだけなんて嫌、
今度は私が彼を救いたい!


と強く願う彼女。

そんな彼女に、
千年前の彼女が力を貸してくれた。

彼が悔いていた出会いを
彼女は悔いてなどいなかった。
死んでしまったけれど、
たった一度くちづけを交わしただけで、
離れ離れになったけれど、
それでもしあわせだったから。
出会えて良かったと思っていたから。
彼と過ごした暖かく穏やかな時間は、
彼女にとって、しあわせな時だったから。

そうして千年前の自分の力を借り、
獏の夢の呪縛から解き放たれた彼女は、
今度は彼を守るために、
あの紅葉山の桜の元に。

すると、そこには獏と対峙する彼が。

そうして彼女は気付いた。
獏はただのあやかしではない。
彼の後悔が生み出した孤独の塊だと。

だから彼に襲いかかる獏を抱きしめた。

ずっと辛かったよね、寂しかったよね。
でも、もう大丈夫だよ。


…と。

すると、獏は千年前の藤原真夏の姿に。

全ては自分の作り出した呪いだったんだ。

気づいた彼は、
ついに悲しい運命に打ち勝つことが出来た。

そうして晴れて恋人になった二人。
迎えた春、3月9日。
二人であの桜を見に出かけた時の事。
いつも満開の桜が、
一段と美しく咲き誇っている事を感じた時、
彼女は、ふと言い知れぬ不安に襲われた。
隣で手を繋いでいる、
確かにここいる彼をを失うような不安。

その気持にせかされるように隣を見ると、
さっきまで一緒だった、
手を握ってくれていた彼が、
姿を消していた。

「真夏さん!」
愛おしい人を求める彼女の声だけが、
春の山に響き渡ったのでした。

2017年2月6日月曜日

あやかしごはん~おおもりっ!/犬嶌詠

梶裕貴さん演じる犬嶌詠の感想です。


-----☆★☆-----


おまえが生きてて、本当に良かった。

狂い咲いた桜。
いつものように彼女と訪れたそこで、
まばゆい光を見た瞬間、
彼は唐突に気付いてしまった。
自分が本当は既に死んでいる事に。

-----

むかしむかし、
まだ人々が着物姿で生活していた頃、
詠と謡が狛犬をしているあの神社も栄えていて、
子どもたちは毎日遊びに来るし、
村人達もよくお参りに来てくれていた。

作物がよく実れば、
お供えをしてお礼をしてくれ、
掃除もマメにしてもらい、
とても綺麗な神社でした。

所が、時の流れと共に、
人々の信仰も薄れて行った。
神様や狛犬は、みんなの信仰がなければ、
その力が弱まってしまうから。
大した加護も与えられず、
次第に誰も来なくなり、寂れて行った。

そんなある日、
彼らの元に現れた一人の少年。

彼は幼いながらもとても信心深くて。
汚れてしまった神社に遊びに来ては、
少しずつ、少しずつ、
そこを綺麗にしてくれた。

すっかり汚れた狛犬の詠と謡の体も、
彼によって元の綺麗な姿に。

掃除をしながら
村の様子を聞かせてくれる彼は、
ある日、
好きになった女性の事を話してくれた。
それがとても嬉しかったから。

双子の狛犬は、
たいして残っていない力を振り絞り、
彼の恋を応援すべく、通り雨を降らせて、
二人を雨宿りするように仕向けた。

そんなお膳立てで親しくなった二人。
青年の人柄に彼女が恋をするのに
さして時間は必要なかった。

そうして二人は夫婦になり、
それ以来、二人は夫婦で
毎日神社を訪れるように。
いつしか二人は子宝に恵まれ、
今度は息子と三人でお参りを。

そんな家族の優しさと暖かさに、
人々が離れて寂しくて
壊れそうだった詠の心は救われた。

けれど、そんな幸せな日々は
そう長くは続かなった。
狛犬のそれと人の生涯は
全く長さが違うから。
彼らから見たら、
あっけない程短い時間で命を終える。

そうして再び寂れてしまった神社を
訪う人は居なくなってしまった。

またそこから月日が流れ、
人々は神の力を頼らずとも
生きていける時代になり、
益々人が寄り付かないそこに、
近くの子どもたちが遊びに来た。

昔の子供達と違い、
寂れたそこを気持ち悪がり、
汚れた狛犬を破壊しようとする子どもたち。
石を当てられた双子の狛犬は、
それぞれ片目を奪われてしまった。

誰が悪い訳でもない。
時代の流れだから
仕方のない事なのかも知れない。

それでも辛かった。
苦しかった。

だって彼はニンゲンが好きだったから。
そんな大好きで、
ずっと見守ってきたニンゲンからの、
とても理不尽な暴力。
そうして奪われた片目。

辛くて、悲しくて、
もうこんな村見守りたくない
…とそう言う彼に、
兄の謡は、
「それでも俺達は見守るのが仕事」と言う。

だから彼は決めたのです。

傷つきたくないのなら、
最初から嫌いでいればいい。
嫌いなら、傷つかなくて済むから。

ニンゲンも、
ニンゲンを見守るという謡も大嫌いだ!

そうして彼は、
暗く冷たい狛犬になってしまった。

-----

でも、詠は彼女と出会った。

自分たちの態度に問題あり…という事で、
神様にぽんぽこりんに預けられた双子の狛犬。
彼らの暮すそこに、ある日やってきた彼女。
最初はうるさい暴力女だとしか
思っていなかったのに。
彼女と共に過ごすうちに、
彼の心は次第に変わっていった。

だって、
嫌いな振りをしているだけだから。
詠はきっと、本当はいまでも、
ニンゲンが好きなハズだから。

でも、彼らはすぐに居なくなるから。
残される寂しさを
もう二度と味わいたくない。
共に過ごした時間が
しあわせであればある程辛いだけだから。

そう思う詠。

けれど、彼女は違っていた。
母を亡くして辛い時も、
幼い頃の紅葉村でのしあわせな時間が、
その思い出が、彼女を支えてくれたから。

だからあやかしという
時間の流れの違う種族の彼の事を愛しても、
彼女は逃げなかった。

例えば二人が結ばれたとして、
自分はいつか詠を残して居なくなるから。
その時、
彼には辛い思いをさせてしまうけれど、
それでも一緒に居たい。
限りある時間だけど、
尽きる時まで一緒に居たい。
その思い出が、
いつか彼を支えてくれるハズだから。

そんな彼女の強い思いが、
二人を近づけたのに。

運命は残酷で、
二人をすんなりと
結びつけてはくれなかった。

突然現れた天狗が、
あやかしの見える彼女を気に入り、
自分の嫁に迎えたいと言い出したのです。

傲慢な彼は、
断る彼女を益々自分のものにしたいと願い、
彼女が自分の元に来るように、
村の女の子を攫い始めたのです。

力の強い天狗。
いくら狛犬であるとはいえ、
本気で戦ったのならば、
きっと天狗に敵わない。

そんな不安をつくように、天狗は言った。

おまえが俺の嫁になれば、
攫った女は村へ返すし、
詠や謡、そして吟さんたちを
決して殺したりはしない…と。

一度自分を助けるために、
殺されそうになった詠だったから、
だから守りたいと思った。
自分が犠牲になる事で、
愛する人を守れるのなら、
それが一番しあわせだ…と。

そうして約束の時まで、
みんなに自分の笑顔を覚えていてもらおうと、
笑って過ごした彼女。

けれど、詠は見逃さなかった。
いつも彼女を見ていたから。
何かを隠しているとか、様子がおかしいとか、
そんな事はすぐ気付いてしまう。

だからあの夜も、
彼女が自分の気持ちを伝えてくれた時に、
ひどく違和感を感じていた。
そうして彼女が一人、
天狗と共に去ろうとしてる時に、
それに気付いて駆けつけた詠。

彼は彼女を取り戻すため、必死に戦うも、
天狗には敵うはずもなく、
大事な彼女を連れ去られてしまう。

それでも必死に彼女の名を呼んだ。
応えられなかったけれど、
彼も同じ気持だったから。
彼女が好きで、彼女が大切だから。

自分だけ助かっても、
そこに彼女が居なければ意味はない。

匂いを頼りに、彼女を追いかけ、
やっと追いついた彼は、
彼女を取り戻すべく、天狗と戦う。
けれど、やっぱり全く歯がたたない。
いや、それどころか、
もうただの一方的な暴力でしかなかった。
ただ、天狗になぶられるだけの彼。

そんな彼の元に、
彼女が飛び込んで来たのが見えた瞬間、
彼女を守らなきゃ!という必死な思いから、
彼の姿は狛犬に変じていた。

そうしてその力で戦ってはみたけれど、
やはり分が悪い。
最初は押しているように見えたものの、
長時間狛犬の姿を維持する事が叶わず、
再び倒れてしまう詠。

そんな彼を天狗から守ろうとする彼女。
詠の命は、自分の命より大事…と。

そんな彼女を守ろうとする彼。
彼女が居なきゃ、
俺だけ助かっても意味はない…と。

命がけの二人の思いに、天狗は去った。
興が削がれた…と。
他の男を命がけで愛してる女など、
全て自分のものにする事が出来ないから、
興味はない…と。

そうして無事に結ばれた二人。

違う種族。
永遠にすら思える程の長い時を生きる彼と、
あやかしからしたら、
ほんの一瞬とも思える程、
短い時しか生きる事の出来ないニンゲンの彼女。
それでも出来る限り、
命が尽きるまで、傍に居たい。

そう願う彼女に、
ずっと傍にいてやるから、
長生きしろよ

と、優しく囁く彼。

そんな風に始まった二人の温かい時間。

そうして迎えた春。
二人は紅葉山に狂い咲いた桜を見に出かけた。
今まで何度も二人で見た桜。
今日はなんだか行かないといけないような、
そんな予感がする…という彼女と共に、
桜へとたどり着く。

桜はいつも以上に美しく咲き、
その桜がまばゆい光を放った。

その刹那、彼は知ってしまった。
自分は既に死んでいるのだ…と。
そうして彼女の名を呼び涙をながす彼。

そうか、俺はもう死んでいたんだ
小さくつぶやく彼のそれに、
「どうしたの?」と訊ねる彼女。

抱きしめて涙をながす彼は、
今はまだ分からなくていい
としか言えない。
もしかしたらあの桜が咲いている間しか、
ここに留まれないのかもしれない。
それがいつまでなのかも分からないし、
本当はそうじゃないのかも知れない。

けれど、今ここに共にあれるこの瞬間。
この時間は
間違いなくしあわせな時間だから。
今はそのしあわせを噛みしめて、
抱きしめあう二人。

その先の未来、二人が何が
待ち受けているかもわからないけれど、
今のその想いがあれば、
きっと乗り越えてゆけるハズだから。

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いつかすべてを知る時が来る。
その時おまえは凄く傷つくと思う。
凄く悲しむと思う。
それでもおまえなら、
きっと乗り越えられるから。

だから今は一緒にいよう。
いつかどちらかが一人になっても、
共にあった時間を忘れないように。