2017年2月11日土曜日

神々の悪戯/アポロン・アガナ・ベレア

入野自由さん演じるアポロンの感想です。


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君じゃない。
そう、違う、君じゃないんだ。
僕には愛する人が居るんだ。
カサンドラという女性が。


だから最初は
彼女とカサンドラが似ているからと、
その面影を重ねていたのに。

彼は気づいてしまった。
どうしようもなく彼女に惹かれている事に。
カサンドラではなく、
ここで共に過ごした彼女に。

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それは文化祭での出来事。
クラス対抗で舞台を使い、
互いの演目を競い合うイベントで、
アポロンたちのクラスは演劇をする事に。
脚本は定番のシンデレラ。

王子役はアポロンで、シンデレラ役は彼女。
元々生徒会長と副会長して、
共に過ごすことの多かった二人が、
今度は演劇の練習のために、
更に共に過ごす時間が増えた。

何度も何度も練習した。
互いが互いを想うセリフを。

それは台本の中のセリフだったのに。
気づかないうちに
どうしようもなく惹かれていた。
だからきっとセリフには
沢山の想いがこもってしまった。

それでもまだ気づかずに居られたのに。

本番で他のクラスの出来が予想よりいいからと、
不安を感じた監督のロキが、
舞台にはハプニングが必要だから…と、
二人にキスをするように
指示した事がキッカケだった。

舞台の幕があがり、
問題なく物語が進み、
ついにキスを指示されたシーン。

いつも以上に熱のこもった
芝居をするアポロンと彼女。
もうそれが演じているのか
本心なのかも分からないほどに。

そうして互いが想いを交わし
見つめ合ったその時、
ロキから「キス!キスだよ!」と指示が。

その声に応えるように、
彼女にキスをしようとしたその時、
彼はハッキリと理解してしまった。

あぁ、僕は彼女の中に
カサンドラを見ていたつもりが、
いつしかこんなにも
彼女本人に惹かれていたんだ
…と。

このままではいけない。
彼女から離れないと。


キスをしてしまったら、
もう気持ちは止められないから。

だから彼は「君じゃない
そう呟き彼女から離れたかと思ったら。

ごめん、君じゃない。悪いのは僕なんだ…
そう言葉を残し、
舞台の袖へと去ってしまった。

訳も分からないまま、
キスを拒まれた彼女は、
自分自身が拒絶されたかのように感じ、
上を向いていないと涙が溢れてしまいそうに。

そうしてそのまま舞台は終了。
最後まで演じきる事が出来なかった彼らの舞台は、
評価無効となり、優勝を逃した。

自分のせいだから…という理由から、
彼はその日
生徒会長を辞めてしまった。

その後、彼女は熱で倒れ寝込んでしまい、
その間、彼はみんなと言葉も交わすことなく、
ただ痛々しい程に勉強に励んでいた。

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アポロンは
有能過ぎるが故に孤独なんだ。

そう教えてくれたハデスは、
彼女をお見舞いに来て、
アポロンの様子を話、
力を貸してほしいと頼んだ。
そうして再び彼がみんなの働きにより、
生徒会長に戻り、
生徒会長して卒業を目指す!と宣言。

未だ一人卒業見込みがもらえていない彼は、
彼女と共に個別で勉強をする事に。

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一番人間に理解があるように見える彼。
けれど、彼には
悲しい未来が待っていた。

それはゼウスが教えてくれた未来の話。
アポロンが心惹かれているカサンドラ。
彼女に気持ちを伝えたくて、
彼女に神の力を与え、
自分に少しでも近づいてほしいと考えた彼。

ところが、人間に神の力は大きすぎた。
過ぎた力は、形を歪めてしまい、
本来未来を予知する能力とは、
自分の未来が見えないものなのに、
カサンドラには見えてしまった。
アポロンと結ばれない未来が。

だから傷つきたくないと、彼を拒絶した。

今まで沢山悲しい別れを繰り返してきた彼。
彼の愛した人は、みんな植物になってしまった。
彼の愛から逃れたくてそうなったものもいれば、
死して、その屍が植物になったものも。

そんな数々の別れと
報われない想いに嘆いた彼は、
太陽神の力を使い、
人々を寄せ付けず孤独を創りだした。

けれど、彼は太陽神だから。
人を寄せ付けないようにと力を使えば、
人間界に影響が出てしまう。
干ばつが続き、
作物が実らず人々は飢えて苦しんでいた。

そんな中、諦める事なく、
祈りを捧げ続けてくれたカサンドラ。
そんなカサンドラの姿に惹かれたのに。
彼女だけは何があっても、
自分から逃げない、
自分の前からいなくならないと思ったのに。

信じた相手が自分を裏切る。

その現実に耐えられないアポロンは、
トロイア戦争で神の力を駆使し、
沢山の人々を死に至らしめてしまう。

そんな未来が彼を待っている。
そう、今のままなら。

だからそうならないように…と頼まれた彼女。

彼女なりに考えて
人間の負の部分を教える事に。

所が、人を理解し愛するが故に
更に憎しみが深くなるのか、
彼の状況は良くなるどころか
悪化し途方にくれてしまう彼女。

そんな彼女にメリッサが教えてくれた。

思い切って全部彼に話してしまえ…と。
彼を待つ未来の事を。

彼が傷つき容赦なく
人の命を奪った話を知っている彼女は、
そんな事をしたら
自分の身が危険かも知れないと思った。
おまえさんたちの絆ってのは、
その程度のもんなのか?


けれど、そう言うメリッサの言葉に励まされ、
全てを話すことに。

そう、二人には絆がある。
ずっと生徒会の活動を
互いに支えあい頑張ってきた。
だから私達なら大丈夫
…と信じて。

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ところがその話を聞いた彼は
怒り狂ってしまった。
枷の制限を超えて神の姿となり、
彼女を焼き殺してしまうのでは?
と思うほどの力の怒り。

そうして
近づくな!僕の前からされ!
と怒鳴る彼に、
それでも彼女は手を伸ばした。

だって彼が好きだから。
彼が愛しているのは
自分ではないと知っても尚、
彼女は彼が好きだった。
だから辛くても乗り越えて、
そして本当の幸せを掴んで欲しいと。

君は自分を愛しても居ない
男のために死のか?


彼はそういうけれど、
それでもいいと彼女は思った。

あなたが幸せになれるのなら、
無事にこの学校を卒業出来るのなら、
私一人の命でそれが叶うのなら、
ここで死んでも構わない
…と。

カサンドラに似ていると思っていた。
でも、違う。
彼女はカサンドラとは全く違う。
どこまでもただまっすぐに
僕を僕だけを想ってくれる。


きっと他の誰もが
自分を見放した時が来ても、
彼女だけは、
ずっとその手を差し伸べてくれる。
僕を信じ、愛しつづけてくれる。


そう信じられたその時、彼の指の枷が外れ、
彼は問題を乗り越える事が出来たのです。

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全員そろって無事に迎えた卒業式。
卒業後は、
ここに連れて来られたあの日時に、
自分の本来あるべき場所に
戻して貰える事になっていた彼女。
けれど、ゼウスとトトの計らいで、
愛する彼と共に彼の世界に。

生きる長さは違うけれど、
この命尽きるまで、
彼だけを愛すると誓う彼女と、
最後の時まで、君だけを愛するよ…と誓う彼。

神と人間、二人は全く違うもの。
だからカサンドラは
神としての彼を愛した。

けれど彼女は違う。
神としてではなく、
彼という存在を愛してくれたから。
だからきっと二人なら、
幸せに暮らして行く事でしょう。