2017年2月8日水曜日

あやかしごはん~おおもりっ!/犬嶌謡

下野紘さん演じる犬嶌謡の感想です。


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しあわせだなって思ってさ。
こうしてお前といて、
お前に触れられるなんて、なんか夢みてぇ。

おかしな謡、夢なんかじゃないよ?
彼女はそう言ったけれど、
それは本当は夢なのかも知れない。
狂い咲いた桜のみせるうたかたの夢。

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根暗女。
吟さんに護衛を言いつけられた直後、
心を開かず、
みんなと居る事を好まない彼女を
彼はそんな風に呼んでいました。

みんなが親切にしてるのに、
それをわかろうともしない、
どんなに気を使っても、
まわりのそんな気持ちも平気で突っぱねる。
そんな彼女の態度に腹が立って仕方がない。

なんでこいつは吟さんがここまでしるのに、
全然分かんねーんだよ。


そんなイライラをぶつけては
口論になる二人。

それでも、彼は、彼女を見捨てなかった。
ニンゲンは嫌いなのに。
昔からいつも嫌いだからと突き放せない。
だからあやかしがニンゲンを襲えば
守ってしまうため、
あやかしからも煙たがられる。

でも、それがオレたち狛犬の使命だから。

だからいつもどっちつかずの
中途半端な存在。
そんな自分の立ち位置が、
本当はイヤだった。

そうして平行線をたどる
彼女との関係だったが、
女郎蜘蛛と彼女の出会いが二人の転機に。

狭霧に会いたい彼女と、
危険だからと止める吟さんたち。
言われるがまま、部屋に戻ったものの、
寂しい気持ち、孤独な気持ち、
それを理解してくれるのは狭霧だけ
…と頑なに思い込んでいる彼女は
全く納得出来なかった。

そうして二度と会うな
…と止められた日の夜、
一人ぽんぽこりんを抜けだして
狭霧の元に向かおうとする
彼女を止めた彼。

納得いかねーなら、
なんで吟さんに喰ってかからねーんだ。


彼は教えてくれた。
ちゃんと言葉で伝えないと
何も伝わらないと。

でも、彼女はずっと一人だったから。
仕事の忙しい母とは、話をする事もなく、
だから母が死んだ時にも、
悲しいのか分からなくて。
泣くことが出来なかった。

そんな彼女は気味が悪いと、
親戚が彼女を避けて、
一人で居た所を吟さんに引き取られたから。

そんな彼女はいつも思っていた。
私の言葉なんて誰も聞いてくれないと。

でも、それは決めつけだった。
ちゃんとここには居たのだから。
彼女の言葉にしっかりと
耳を傾けてくれる人が。
謡という優しい狛犬のあやかしが。

そうして狭霧が
悪いあやかしだなんて信じられないから、
自分で話して確かめたいという
彼女の思いを聞き届けた彼は、
そのまま彼女と狭霧の元へ。

その後、真夏さんの護符で
撃退された狭霧でしたが、
護符の効果か、
人を喰らいたい気持ちはなくなった。

ただ、毎日自分に会いに来てくれた彼女が、
狭霧がお母さんだったら良かったのに
と言った彼女が、
本当に可愛くて仕方なくて。
だからぽんぽこりんに
ご飯を食べながら、
彼女の様子を見に来るように。

そんな風に狭霧と素敵な関係を築けたのも、
全部謡のおかげ。
彼が教えてくれたから、
ちゃんと思いを伝える事の大切さを。

以来、人と向き合う事が
少しずつできるようになった彼女の周りには、
気づいたら、謡と詠だけでなく、
萩之介くんや蘇芳くんなど大勢の仲間が。
そうして彼らと共に
高校生活を楽しめるようになった。

それも全て謡がくれたもの。
彼に出会えたから、
彼が教えてくれたから、
自分は変わる事が出来て、
たくさんのしあわせを手に入れた。

そんな彼女が、
彼を好きになるのは多分とても自然な事。
そしてまた彼も、
みんなと溶け込んで
笑顔を見せるようになった彼女を、
とても大事に思うように。

それでもニンゲンとあやかしだから。
自分はニンゲンでもあやかしでもない、
とても中途半端な存在だから。

そんな彼の中途半端な立ち位置が、
大切な彼女を
あやかしのいざこざに巻き込んでしまう事に。

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それは彼女と出会ったあの日、
彼が追いかけて山に返した鬼。
その鬼が彼を恨み、
いつか仕返しをしようと力を蓄えていた。

彼女への気持ちを自覚して、
うまく話せなくなった彼は、
なんとなく顔を合わせづらくて、
一人桜を見てい時、鬼の復讐が始まった。

謡とのぎこちない様子を心配した吟さんに、
仲直りができるように…と
彼の好きな肉料理を作ろうと提案されて、
彼の帰りを待っていた彼女。

所が一向に返って来る様子のない彼。

そうしているうちに、日がくれ、
それでも戻らない謡の危険を
知らせる鈴が鳴り響いた。

双神の鈴。
一対のそれは、二人で1つずつ持つと、
片方が危険に陥ると
鈴の音を鳴らして知らせてくれるもの。

そうしてその音に
居てもたっても居られなくなった彼女は、
詠と共に鈴の音を頼りに彼を探しに。

辿り着いたそこには鬼が居て、
詠の助けを借りて、
なんとか謡に出会えた彼女。
ケガをしながらも、
彼を助けに来たその姿に、
彼は「ここから逃げろ。
そしてこの村を出るんだ
」と、
自分から離れるようにと。

ただ大切な人を守りたかったから。

自分があやかしであるせいで、
こんな危険な事に
あいつを巻き込む訳にはいかねぇ。
だって、あいつは
何百年もこの村にいるオレが、
初めて出会った大切な女だから。

そうして彼女を逃し、
一人鬼と対峙する彼。
この命と引き換えにしてでも、
大切なものを守りたいと思ったから。

けれど、力を蓄えて
復讐の時に伺っていた鬼のそれに、
謡のボロボロの体では全く敵わない。
もうダメかもしれない…と思った時、
逃がしたはずの彼女が戻って来た。

私を先に食べればいい」と。

バカなのか?
オレがどんな思いで
逃がしたと思ってるんだ?


驚いた彼は、
必死に彼女を守ろうとするのですが、
彼女が捕まってしまい、
今にも鬼に食われそうに。

それでも助けないと!
何をしてでもあいつを
…あいつだけは守るんだ!


彼の必死な思いに応えるかのように、
体の奥底から力が湧き上がり、
片目を失った彼では
決して変じる事の出来ないハズの
本来の狛犬の姿に変じた彼。

そんな彼のまとう光も、
発する力もとても強くて、
鬼はアッサリと彼に倒されてしまった。

良かった…と安堵したのもつかの間、
狛犬に変じた事で
全ての力を使い果たしたのか、
そのまま倒れてしまった謡。

そうして後から駆けつけてくれた
吟さんや詠とともに、
彼を無事に村に連れ帰る事は出来たものの、
その後一週間、
彼は全く目を覚ます気配もない。

このまま二度と謡が目覚めなかったら。
最悪の事態ばかり想定しては、
涙をながす彼女。

それでもどうしても、
もう一度彼に会いたくて、
彼の声が聞きたくて、
寝ている歌に話しかけているうちに、
知らず眠りに落ちた彼女。

そんな彼女の夢の中、
見えるのはあの桜の木。
美しく咲き誇るそれが、
強い光を発した直後、
桜は全て消え失せて、
ただ雪をまとった木が残された。

その木の根元にうずくまる人影が一つ。
それは彼女が知っている人影。

声をかけようと思った途端、
大好きに声に起こされたのです。

そう、会いたかった彼が、
聞きたかった声で、
彼女を起こしてくれたのです。

やっと目覚めた彼と気持ちを確認しあい、
穏やかな日々を迎えた二人。

あやかしとニンゲンの恋は
本来はご法度とされているもの。
それでも愛してしまったから。
だから彼は彼女を連れて、神様の元へ。
恋人になった…と報告をしに。

二人が覚悟の上で決めた事なら…と、
手を繋ぐ二人を祝福してくれた神様。

そうして神社の境内で話をしていると、
風に乗った桜の花びらが二人の元へ。
その花びらに、ハッとする彼。
何があったのかはわからない。

ただ訊ねる彼女に、
しあわせだなって思ってさ。
こうしてお前といて、お前に触れられるなんて、
なんか夢みてぇ

そう言った彼は、どこか儚げな笑を見せる。

そんな二人を遠くから眺める神様が、
残された僅かな時間を
大切に生きるのじゃよ
」と小さく呟いた。