2017年3月3日金曜日

ヴァルプルガの詩/謎の青年

柿原徹也さん演じる謎の青年のネタバレ感想です。


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おまえと共にある時だけ、
俺は生きていると感じる事が出来た。

もう捧げられるものは、その身の自由だけ。

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現世と隠世の狭間にひとりきりの彼。
動く事も出る事もかなわない。
ただそこにあるのは、
果てしなく広がる闇だけ。

そんな彼の世界に突如現れた一人の女の子。
幼い少女は彼の姿を
犬と間違ってはいるものの、
見る事が出来、声を掛けてくれた。

そうして何度か
話をしているうちに親しくなった二人は、
ずっと一緒に居ると、
伴侶になると約束した。

幼い少女に伴侶の意味は
ちゃんとは理解出来ていなかった事だろう。
それでも寂しかった彼女の
心を癒してくれたわんわんは、
彼女にとって大事な存在だった。
本当にずっと一緒に居たいと思うほどに。

また会いに来ると約束を交わし、
名のない彼に
フインスと言う名をくれた彼女は、
闇の中にひとりきりだった彼にとって、
唯一の光だった。

寂しさなんて知らなかった。
でも、光を知ってしまったから、
闇の寂しさを知る事になってしまった彼。

そうして礼拝堂を出た彼女は、
大神家の牙の一人、牛尾にに記憶を消され、
彼との出会いも、思い出も約束も、
付けてあげた名前までも、
すべて忘れてしまった。

それから10年の時が過ぎ、
彼はそれでも尚、
その約束を大事にしていた。
ずっと彼女を待っていた。

そうして力を蓄えた彼は、
土砂で流されてきた
志賀喬と言う青年の骸を手に入れ、
自由に歩き回れるように。

そうしてずっと待つだけだった
あの少女を探しに出た。
だって、彼女は、
彼にとって唯一の光だったから。

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そうしてリュウやトラに助けられた
あの洋館での再会後、
志賀喬として彼女達の学校に。

彼はただあの約束を守りたかった。
あの日光を与えた少女と共に有りたかった。
彼の願いはそれだけなのに。
彼はとても力の強い存在だから、
彼が存在するだけで、
そこに禍が発生してしまう。

その禍を払う事が使命である
大神一族である双子とは、
どうしたって対立せざるを得ない。

戦いたい訳じゃない。
望みはいつだってたった一つ。
あの暗闇の中で
あの子の声を聞いてからずっと。


10年間ただひたすらに想い続けた彼女。
初めは記憶がない事も手伝い、
ただ彼に対して
怯えの感情しか持っていなかった彼女が、
禍の事、彼に狙われる事と向き合い、
封じられて居た記憶を取り戻すにつれ、
彼に惹かれるように。

そうして彼が現世にただ存在するだけで
発生してしまう禍をなんとかして欲しい
…そんな無茶なお願いだって、
大好きな彼女のためなら、
面倒だと言いながらも、
ちゃんと聞いてくれる優しい彼。

毎朝毎晩禍を退治して歩いてくれた。
それが彼女の願いだったから。

話をちゃんと聞いてくれる。
目的は自分と共にある事だけ。
それを知った彼女は
友達であるトラやリュウと、
彼を戦わせたくない。

だから彼女は彼のもとに行き、
彼と共に街を離れた。

それでも彼は存在するだけで、
そこに禍を集めてしまう。

そう、彼はこの世に禍を発せずに
存在出来る場所などない。
どんなに彼女が、
そして彼が共にある事を望んでも、
現世にいる限り、
必ず人々に良くない影響を与えてしまう。

だから彼女を伴侶として
自分と同じ存在にするため、
隠世の実を飲ませる彼ですが、
彼女はまだ決心出来ない。
彼と共に隠世にいくという事は、
大事な家族、友達を
みんな捨てるという事だから。

迷いに迷って、少しの間離れて、
それでみんなに納得してもらってから、
フィンスと共に行こうと決意した彼女。

そして彼もまた、
そんな彼女の気持ちを汲んでくれ、
今まで10年待ったから、
それくらいなら構わない…と、
いつでも彼女の思いを尊重してくれる優しい人。

けれど、世界はいつも二人を許さない。
どんなに想い合っても、
周りに迷惑を掛けないようにと心がけても、
それでも世界は二人を排除しようとする。

まるで世界の意思がそうしたかのように、
共に行動していたジークが、
トラたちと取引をし、
彼の骸ごと洋館を焼いてしまった。

彼と共に生きたい!
必死に手をのばすけれど、
彼女の血を飲んだジークに
拘束されて彼女の手は届かない。

彼女と共にある事が叶わないのなら、
ここにある意味などない。
欲しいものは、興味あるものは、
この世界でたった一人、彼女だけなのだから。


もう焼かれて消えてしまう彼に
出来る事は何もない。
愛する人に与えられるものは一つだけ。
自分という呪縛から解放して、
自由をあたえる事だけ。

愛してる」といい残し、
彼女に自由を会えた、
消えてしまったフィンス。

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その後、火事の洋館から助けだされた彼女。
学校も再開されて登校してみるものの、
トラやリュウ、
そして彼の事を知る人は誰もいない。
みんなの中からすべて消えていた。
まるで初めから居なかったように。

それでも彼女は覚えているから。
名前を思い出せない彼だけれど、
とても愛していた事を。
まるで心の半分が、
体の半分がなくなったかのような喪失感。
ポッカリとあいた穴は、
塞がる事がないまま、
時がだけが無情に流れる。

あぁ、人は心から愛する誰かを得た時に、
初めて満たされるんだ。
そうしてその人を失った時に、
本当の寂しさを知るんだ。


彼と別れた洋館の礼拝堂。
焼かれてなくなったその場所に一人佇む彼女。
涙を流し彼に会いたいと強く願う。
それでももう彼と会う事は叶わない。

そうして一人礼拝堂の跡地に
佇む彼女を迎えに来た兄に連れられ、
帰宅した彼女は、一人部屋で休む事に。

すると部屋には彼女の名前を呼ぶ声が。
それは一番聞きたかった声。

本当はあの時消滅するハズだったのに、
こうして生き残り諦める事が出来なかった。


そういう彼は、彼女を迎えに来てくれた。

世界を敵に回しても、
あなただけは、おまえだけは、
失う訳には行かないから。
だからもうこの手は二度と離さない。


そうして二人きりで結婚式をあげた。

二人を拒むこの世界で生きるのか?
それとも隠世で生きるのか?
それは分からないけれど、
でもきっと大丈夫。
もう二度と離れたりしないハズだから。