2017年4月9日日曜日

マーメイド・ゴシック/ロキ・ジルフォード/ベスト

豊永利行さん演じるロキのネタバレ感想です。


-----☆★☆-----


俺はおまえのためだったら
この生命だった捧げられるよ。

-----

俺の母親は人間で父親は人魚。
ともに暮らせない二人だけれど、
父は海から母に会いに来ていた。

けれど、ある日
突然父が母に会いに来なくなった。

一人になった母。
お腹には父との子供の
俺達が居たって言うのに。

だから人魚は嫌いだ。
母親を一人にしたから。

その後、母は双子の俺たちを出産。
女手一つで育ててくれた。

けれど、以前父の血を飲んだ事のある母は、
男性の人魚の血の効能
不老」を手に入れてしまい、
ずっと若いまま。
そんな様子を見て気味悪がる街の人々は、
次第に母を「魔女」として
疎ましがるようになった。

そうしてついに母は
そんな状況に耐えかねたのか、
海に身を投げて死んでしまった。
俺たち二人を残して。

だから人間は嫌いだ。
母を追い詰めて殺したから。


けれど、それだけでなかった。
人魚と人間のハーフとして生まれた俺達は、
魔法なんてものが使えたから。
それを私利私欲のために
利用しようと考える奴らが、
後を断たない。
捕まりそうになるのを
何度も魔法で交わしていたんだ。

そうして母を魔女呼ばわりする奴らに、
まだ子供だった俺達は言ってしまった。

母は魔女なんかじゃない。
人間なんだ。
ただ、人魚の血を飲んだから
不老になっただけなんだ。


それがどんな状況を招くかも考えずに。

その言葉を聞いた貪欲な人間たちは、
まずはその子供なら血に効能があるだろうと、
俺たち二人を捕まえてその血を飲んだ。
そうして俺達の血に効果がないと知ると、
今度は人魚を探す事に躍起になった。

男の人魚の血は不老、
女の人魚の血は不死、
満潮時に人魚の血を飲むと
どんな生き物でも死に至る。

それが人魚の血の効能。

そうして人間の
度重なる嫌がらせに耐えかねた俺達は、
その住処を海の中に。
そこで双子のもう一人が、
自分たちの言葉が人魚を危険に晒したから…と、
その姿を人形へと変えて人魚の元に。
そうして彼は人魚を愛し、人魚の王として君臨。

その後、人間が
人魚を捕獲するために薬を撒いた時、
その力を無効化する魔法を使ったあいつは、
その時の心理状態に問題があったため、
海の色を黒く変えてしまったんだ。
そう、まるで今のこの海のように。
何度もその海に更なる魔法を掛け、
海の色を戻そうと試みたけれどうまく行かず、
ついにあいつは決心したんだ。
海の色に怯える人魚たちのために、
その命を捧げる事を。

魔法を掛けた本人が消える事で、
その魔法がすべて解けるから。
そうする事しか、
海の色を戻すすべはなかったから。

けれど、俺は人魚なんて嫌いだったから、
あいつを止めたんだ。
人魚のためにおまえが死ぬ事なんてないって。

それでもあいつは人魚が大事だからと、
その命を捧げ、海を元に戻した。
俺に人魚を頼むと言い残して。

だから人魚なんて嫌いだ。
人間も人魚も、
俺から大切な家族を奪って行く。


そうして一人になった俺は、
それでもあいつの意志を受け継いで、
王が人魚を捕まえるために薬を撒いた時、
あいつと同じ魔法を使い、
その力を無効化したんだ。

そうして再び海は黒に染められた。
それはあいつと同じように、
魔法を使うときに精神的なものが
作用して起こったもの。
それを元に戻す術は、
俺の命を捧げる以外すべはない。

そして人魚の王はすべてを知っていた。
先々代の王にあたる、
あいつが未来を見て書き残したんだろう。
海が再び黒く染まる事。
そして俺が王の娘に惚れて、
彼女のためにその命を捧げるだろう事を。

誰かの思惑どおりになるなんて
癪な話しなんだけどさ。
あいつの見た未来通り、
俺は彼女を愛してしまった。
青い海を愛し、いつも笑っている彼女。
だからつい思ってしまったんだ。
俺が死ぬ事で彼女の好きな青い海が戻るなら、
この命をくれてやってもいいってね。

人間も人魚も好きじゃない。
だから黒い海で
あいつらがどんなに困ろうと
知った事じゃない。

けど、彼女は別だった。
とても大切な存在だから。
その彼女が望むのなら、
俺は命だった捧げられる。

そうして全てを彼女に話し、
彼女に決めて貰ったんだ。
俺を殺す事を。

おまえのためなら死んでやれるから。
だから俺を消してくれ。


そう頼んだのは俺。
人魚と人間のハーフで魔法使いの俺は、
驚くほどに寿命が長い。
それこそ半永久的に生きる。
そんな俺が死ぬのを待っていたんじゃ、
青い海なんていつまで経っても戻らない。

だから決めたんだ。
俺は充分に生きたし、
こんなにも大事な存在にも出会えた。
それでもう充分だって。
愛するヤツのために
かっこ良く死んでやろうじゃないかって。

そうして期限を決めて、二人で思い出作り。
料理を作ってくれた彼女と
楽しく食事をした時に、
おまえと家族になれたら、
こんな楽しい時間を過ごせたんだな

…なんて思わず言った俺に、
おまえは望んでくれたよね。
結婚式をしよう…と。

そうして海辺の教会で
二人きりの結婚式の真似事。
永遠の愛なんてこれから死ぬ俺が
誓わせる訳には行かないから。
それでも、それっぽい事をして、
思い出にしたかったんだ。

忘れないで欲しい。
ずっと俺を覚えてて。


そんなズルい事を言ったけど、
おまえの笑った顔が好きだから。
だからもし辛いのなら、忘れていいよ。
それでおまえが笑って居られるのなら、
俺の事なんて記憶から消して構わないから。

それでも忘れたくないと言った彼女に、
死ぬならおまえの血を飲んで死にたい
そう告げた俺。

そうして彼女にくちづけをし、
その唇を噛んで、彼女の血を体内へ。
幸い今朝は満潮だから。
満潮の時に人魚の血を飲むと死に至る。

唇の感触が消えた事に気づいた彼女が、
その目を開けた時には、
俺はもう光になっていた。
好きだ。
大好きだ。
愛しているよ。
だからどうか幸せで。


そんな祝福の気持ちのまま、光になった俺。

悲劇は好きじゃないと言った彼女。
けれど、これは悲劇なんかじゃない。
こんなに満足して、
愛する人のために消える事ができたんだから。

そして俺が消えた事で解けた魔法が海を青くし、
彼女に愛の言葉を返した。
戻ったばかりの大切なその言葉を、
彼女は何度も呟いてくれたんだ。

ロキ、好きよ。
愛しているわ。


届かないと涙を流す彼女。

-----

俺にはもうその涙を
拭ってやる事は出来ないけれど、
大丈夫、愛の言葉は
ちゃんとここに届いているから。